TOP > ワオ・コーポレーション(能開センター)によるスペシャルイベント Boys&Girls, Be Ambitious! 世界で学ぼう!2018

凄い先輩に学ぶ

2018年8月15日開催

大阪工業大学梅田キャンパスOITにて

 8月15日、大阪工業大学梅田キャンパスにて、能開センターOBたちによる、若者発・若者向けのジョイント講演会が開催されました。関西の医学部生を中心に2025年万博誘致活動を行う“WAKAZO”の藥王さんたち3名によるプレゼン(第一部)と、世界最高の理工学系大学MITで研究者としての道を進む前田さんのプレゼン(第二部)です。

 いま23~24歳の能開の先輩たちが大学(院)で何を学び、何を目標に見据えて、どんなふうに考え、どんな行動を起こしているのか? また、そんなふうにできる、湧き出る意志と力の源とは? タイトル通り、世界を舞台にアンビシャスな目標を掲げて躍動する、皆さんと等身大の若者たちによる最高のプレゼンをレポートします。

第一部の動画はこちら

第二部の動画はこちら

プロフィール

前田 智大さん
 灘中高から東京大学に進学。1年次に渡米してマサチューセッツ工科大学(MIT)へ転学。「科学の甲子園」準優勝、「国際生物学オリンピック」銀メダル。MITでは電子工学を学究。ICCP(International Conference on Computational Photography)で唯一の学部生の筆頭著者として論文発表、最優秀賞。能開OB。

藥王 俊成さん
 和歌山出身。大阪大学医学部5回生。Texas Children's Hospitalに来年留学予定。inochi学生プロジェクトco-founder、現CFO。WAKAZO co-founder、現共同代表、能開OB。

川竹 絢子さん
 名古屋出身。京都大学医学部5回生。Stanford大学、Queen's大学留学。茶道部。趣味はアジア旅行(東南アジア、インド、トルコなど)。

塩田 悠人さん
 小中時代、南米アルゼンチンに5年間在住。大阪大学大学院生命機能研究科修士課程2年。WAKAZO執行代表。スペインにサッカー留学。サッカー同好会全国準優勝。

プログラム

第一部 いのちについて関西から若者自らが世界へ発信し未来を変えていく
~“WAKAZO”の藥王・川竹・塩田さんによるプレゼン~

いのちを考える学生プロジェクトから大阪万博誘致の自主提言へ
藥王 俊成さん

 “WAKAZO”について今から3人でプレゼンしますが、まず私からは「inochi(いのち)学生プロジェクト」から「WAKAZO」が発足した経緯を、また最後に、私たちに続く後輩の皆さんへのメッセージを話したいと思いますので、よろしくお願いします。

 「inochi学生プロジェクト」というのは関西の医学部生を中心とした自主グループで、そのミッションは若者の力でヘルスケアの課題を解決すること。真にイノベーティブな、イノベーションを起こせる人材を育成することをめざしています。コアメンバーは10名ほどでやっています。少数ですが、大きなことをしていると思います。

 まず、社団法人「inochi未来プロジェクト」とも連携し、中学生高校生大学生が参加する「inochi学生フォーラム」運営などを通じて、現在日本が抱えるヘルスケア、つまりいのちに関わる問題に対して提案や具体的な行動を行っています。

 具体的には、「AEDの使用率を上げる」「日本の心臓突然死を減らす」などのテーマに取り組み、今年は「自殺予防」に取り組んでいます。また、アセアン諸国など海外の方々とも協力し合って活動しています。これらは、次世代ヘルスケア人材を育成するGENSEKI(原石)プロジェクトです。

 こうした中で、大阪府の万博に正式立候補前でしたが、その提唱テーマが私たちのプロジェクトテーマ「いのち」に近い「人類の健康・長寿への挑戦」(当初案)であることを知りました。そこで私たちプロジェクトは万博誘致活動に自主参画し、関西の若者主体に万博で何をどう問うべきなのかを捉え直して、5つのテーマ100の意見としてまとめ、松井知事に提言しました。これが“WAKAZO”の始まりです。

 今では、「若者による万博への参画WAKAZO」と「ヘルスケア人材を育成するGENSEKIプロジェクト」が「inochi学生プロジェクト」事業の2本柱です。

 私たちプロジェクトの重要キーワードは、メディスン、テクノロジー、リーダーシップ。そして、提言・開発・対話・研究の4つのアウトプットを通じて、社会に具体的に働きかけています。私たちの活動での中高生の提言が国会答弁に引用された実績もあります。発表その他を通じた活動は各方面で評価され、数々の場で表彰もいただいています。

 

パリ総会で大阪誘致獲得に向け若者代表として、最強プレゼンター山中教授の前にプレゼン
川竹 絢子さん

 とうとつですが、皆さんは「いのちって何だろう?」って考えたことがありますか? 私自身は、高1の生物の時間にヒトがたった4つの塩基(DNA)から作られているということを知って衝撃を受け、それ以来生命に強い興味を抱くようになりました。

 今、医学部実習生として、実際に余命1カ月の方と接することもあります。今日は話すことができても明日にはもしかすると話せなくなっているのかもしれないと考え、命の尊さをリアルな問題として日々捉えています。

2025年大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。これを知り、世界中の人々と「いのち」についていっしょに考えてみたいと思うようになり、私はWAKAZOに参加しました。

 それでは、WAKAZOのこれまで活動を3つのフェイズに分けてご紹介します。2016年「WAKAZO 0.0」。大阪府がまだ万博に正式立候補前に、私たちは大阪万博を誘致すべきであること、そして「いのち」をテーマにすべきことを提案しました。私たち「いのち」に関心を持つ若者こそが参画しなければならないと強く感じていたのです。それをまとめたものが「2025大阪万博誘致 若者100の提言書」です。

 2017年「WAKAZO 1.0」。行動の始まりです。WEBサイト「WAKAZO.ONLINE」を立ち上げるとともに、WAKAZO Creative Competitionとして世界中の若者、学生による「いのち」「未来社会」に向けたアイディアの募集を開始しました。これは同時に、人材の発掘であり新たな仲間との出会いでもありました。

 Competitionの内容には建築やパフォーマンスなどがあり、優勝者を中心にWAKAZOパフォーマンスチームも結成しました。

 2018年「WAKAZO 2.0」。「WAKAZO館」実現に向けて、集まったアイディアをもとに出会った仲間たちといっしょに、どんなパビリオン「WAKAZO館」を作っていくのかを具体的に企画立案し始めました。その内容は、3月に来日したBIE(博覧会国際事務局)調査団にも提案しました。

 2018年6月には、フランスパリで万博誘致検討会合である第163回BIE総会が開催。そこで最終プレゼンを行う日本代表団に、WAKAZOメンバー代表として私も加わりました。私は、注目の最強プレセンター・iPS細胞活用医療で世界的に著名な京都大学の山中伸弥教授の前に登壇し、同じヘルスケアに関わる教授のプレゼンへと橋渡しする重要なオープニングスピーチとしての日本代表プレゼンをBIE加盟諸国に対して行いました。なお、このとき冒頭披露されたオープニングムービーには私も出演しています。

 

「いのち輝く未来社会」のために世界の若者の知恵と力を集めたい
塩田 悠人さん

 父の仕事の関係で、小3~中2の5年間、アルゼンチン在住。ずっとサッカー少年で、帰国して高校生のとき、ひざの半月板をケガして、お世話になった整体師さんの仕事に感心しました。そこから人体や医療に興味を持ちましたが、血が苦手。大学では生物工学から生命機能、人工知能、脳科学の方向へと進みました。

 WAKAZOとの関わりはそういう中で生まれたのですが、僕の興味があることは「人間と機械」。いま、テクノロジーが進化し、SFの世界ように人間と機械の境界線があいまいになり、改めて人間だけが持っている性質、「いのち」とは何かの問いがクローズアップされる時代です。

 AI、ICT、IoT、ビッグデータなどで進化した未来社会「Society5.0」では、逆に人間性の獲得が重要テーマとなるでしょう。僕は機械が発達するからこそ、人間中心の社会を作りたいと考えます。

 なぜ大阪万博なのか? 大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。つまり、万博は「未来社会の実験場」となります。そこでは社会実験が行われます。僕は日本だけではなく、世界中の人々の生活実験の機会を提供したいと考えます。

 実は現在の日常風景、たとえばエレベーター、ファストフード、電話、缶コーヒー、エッフェル塔などの巨大建築物、また先ほど紹介のあったAEDなども、すべて万博で世の中に登場し、社会に世界に普及していったものなのです。

 いわば、万博とは未来社会を作る試み。新たなモノや生活スタイルが世界中の人間の社会、生活の中に導入され発展していく契機となり、それを通じて最終的には「人間とは何か」さえが問われる、オリンピック以上に社会的に重要なイベント、それが万博です。そこで、私たちWAKAZOはパビリオンという実験場を作り、「人間と何か」を問いたい。これが「WAKAZO 3.0」です。

 私たちは学生で、また大学とは学び、研究するところです。ですが、それだけでいいのでしょうか? 私は同時に、学生は試み挑戦する者であり、大学は実践してみる場だと考えます。若者だからできることがたくさんあります。世界中の学生、若者と一緒に世界をより良くする活動に参画してほしい、私たちに続く皆さんも大学に来て一緒に考え行動してほしいと思います。

 私たちWAKAZOは大阪万博に向けて、次の2つのことを実践していきます。1つは、「いのち輝く未来社会のデザイン」の実現に向けて、世界中の若者、学生の知恵を集めます。WAKAZOは世界最大の学生団体です。現在約80カ国の学生とのつながりを持っていますが、これから世界を回りBIE加盟国約170カ国すべてに輪を拡げていきたいと思います。

 2つ目は、その世界中の若者の知恵を結晶として形にして、人間とモノとの新しい関係が感じられるパビリオンを作り上げたいと考えます。これまでの単なる人の道具としてのモノではなく、モノが人に問いかけたり、モノが人間特有の行動や感情を誘発できたりするような「WAKAZO館」の建設をめざしたいと思います。世界の多様性の奥に、普遍的な人類共通の性質を探りたいと考えます。

 

本日の参加者、若い皆さんへのTAKE HOME MESSAGE
藥王 俊成さん

 TAKE HOME MESSAGE、つまり今日の機会に皆さんに持って帰ってほしいメッセージです。アンテナを張れ。上を見据え続けろ。π字型人材をめざせ。限界を感じるな。そして、一番大事なことは、行動しよう!です。順に、少しだけ解説を。

 世界では様々な出来事が起こっています。スマホだけでは自分の興味に絞り込まれた情報だけを見ている危険性があります。自らいろんな情報を取りに行ってほしいと思います。まず、アンテナを張ること。

 上には上がいます。自分自身も井の中の蛙になっていた時代がありましたが、上には上がいて、すごい奴はいくらでもいます。上を見て、すごい奴に追いつけ追い越せと頑張ってほしいです。

 π字型とは何でしょう? T字型は、横に広い知識と1つの専門知識を持つ人材を意味しますが、これからはこれでは不十分です。πというのは専門知識が2つあるということなのです。医療とプログラミングを掛け合わせるとすごいことが起こるかもしれません。

 初めから限界を感じる必要はありません。夢をもってやってみれば、できることは想像以上に多いです。私たちWAKAZOの活動も、最初は学生が何を言っているのだという感じでしたが、今はいろんなことができていると実感しています。

 そして、ラストは「行動しよう!」です。何事も行動なしにはなし得ません。一歩でも前に進む。何かに挑戦してみるということが大切だと考えます。

 

→WAKAZOについて詳しくはこちら

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第二部 自己成長に必要なもの:冷静な自己批判、とてつもない努力、そして運
~MIT留学中の前田さんによるプレゼン~

 こんにちは。WAKAZOの皆さんが「夢に向かって走っていこう!」というプレゼンだったのに対して、僕のプレゼンは「目標が定まったとき、その達成のためにどのように目標に向かえばよいのか?」を、僕のこれまでの経験をふり返りながら話したいと思います。

「お前の論文は50年後に誰が読むのだ?」

 実は、先日もこんな経験をしました。そもそも、僕は科学の世界の最先端がどのようになっているのか知りたい、その知識を活用しそこで活躍したいと思い、MITで研究者をめざしました。その研究者の世界では論文を書き、成果を出すことが存在意義のバロメーターになります。だから、特に大学最後の1年半は死に物狂いで論文を書いてきました。

 そしてこの5月、学部生最後の国際学会(ICCP)の発表で、学部生初のベスト論文賞をとりました。受賞後自慢こそしませんでしたが、内心はすごくうれしくて自信にもなりました。ところが、同じ研究室の先輩にこう問いかけられたのです。

 「お前の論文は50年後に誰が読むのだ?」「論文を書くことが目的になっていないか?」「科学の発展に貢献するっていう理想はどこにいったのだ?」と。要するに、科学的な革新がないということ。その通りだと思い、何も言い返せず、深く傷つきました。しかし本当のことを、こんなにストレートに言ってくれる先輩に愛と感謝を感じました。

 研究者としての存在感を示そうと必死でやってきた論文を書くことが自己目的と化して、本当の目標とすり替わってしまっていたことに気づかせてくれたからです。科学の発展のために研究者をめざしたのに、ただキャリアを築くことにとらわれ、本来の目標を見失っていたのです。危なかったと思います。

 こんなふうに、自分の目標に向かうといっても、ただ頑張ればいいということではないのです。自覚的な方法論が必要です。今日は、自分への戒めというか、初志貫徹への自己激励の意味も込めて、話したいと思います。

選べる選択肢は「攻め」「逃げ」「ごまかし」の3つ

 さて、目標に立ち向かうとき、選べる選択肢は3つです。「攻め」「逃げ」「ごまかし」。「攻め」とは、目標に向かってきちんと正しいチャレンジを続けること。

 たとえば、中学受験のとき、「攻め」を素直にできたことで僕は合格できたと思っています。「逃げ」とは、目標に真正面から立ち向かわずに逃避すること。「どうせ自分にはムリだ」とチャレンジせず、さぼったり目標を下げたりすることです。
 そして「ごまかし」とは、自己欺瞞、自分で自分をだますことです。やるべき努力をやらずに手前のできることに時間を費やし、自分は頑張っていると自分に言い聞かせることです。努力のすり替えであり、自己肯定を含んでいるので、次第に自分自身で気づけなくなることもあります。

 ここにいる皆さんはいかがですか? 正しく「攻め」ができていますか? まさか「逃げ」を選んでいる人はいないと思います。でも、「ごまかし」を「攻め」だと勘違いしている人はいませんか? 僕の論文の自己目的化はこれでした。または、本当はAがしたいのにBのほうが簡単だからそっちを優先したりするなども「ごまかし」の一つです。
 ただし、「攻め」以外の選択も絶対に悪いというわけではありません。あとで役立つこともあります。大事なのは自分が今どの選択肢を選んでいるのかを自覚していることです。

 今日はそんな目標と選んだ選択肢との関係を、僕自身の灘からMITへの経験の中でMITでの生活の紹介も交えながら、具体的に考えたいと思います。僕のこれまでの選択が「攻め」だったのか、「逃げ」や「ごまかし」だったのかをふり返り、それが今にどうつながっているのか、どのように成長してきたのかを話すことが、皆さんの成長につながればと思います。

自分を変えていくきっかけは人との出会い

 僕は必死に勉強して灘中に滑り込みました。それから中2くらいまで、特にやりたいことはなく、平均点を取れていれば満足で、このまま東大に行ければいいなっていう感じでいたのが僕でした。そんなときにこの先輩の話を学校の先生に聞いたのです。人との出会いが人生を変えていくきっかけになるのだと思います。

 4年上の古賀さんという方で、東大に行かず、ハーバード大学とイェール大学に合格し、世界最高といわれるハーバード大学ではなくイェール大学に進学した人です。その後、大学2年のときにGAKKOという組織を立ち上げ、高校生向けの国際的なサマーキャンプを運営されています。興味があれば、インターネットで調べてみてください。

 その進学の話を聞いて、ハーバードを蹴るってどういうこと? どうして? 自分とは違う世界だ、と僕は思いました。そして気づきました。自分はつまらなく、ちっちゃいのだと。自分がなんてつまらない人間になってしまったのかと実感したのです。まったく無知だったのです。

ドーキンスの遺伝子からオリンピックとホヤへ

 自分を変えたい、何かやってみたいと思いました。でも、自分がやりたいことはなかなか見つかりませんでした。そういうときに、リチャード・ドーキンスという人が書いた『利己的な遺伝子』という本に出会いました。それはこれまで生物学は暗記勉強だと思っていた僕をみごとに裏切ってくれる素晴らしい本でした。

 「生命とは何か」は先ほど出ましたテーマですが、ドーキンスは生物は遺伝子を運ぶ乗り物だといいます。生物個体は次の子孫へ遺伝子を引き継いでいくためだけの存在だというのです。「僕」はこの世界で何かをするとかではなくて、単に子孫を残すためだけの存在だったわけです(笑)。

 しかもそれを、ゲーム理論などを用いて論理的に説明し尽くしてありました。とてもおもしろい!と思いました。これが、僕が生物学の勉強を本気で始めたきっかけです。そして力が少しずつ付いてきて、チャレンジしようと「国際生物学オリンピック」をめざしたのです。目標ができて、「攻め」にギアが入りました。

 初めて挑戦した中3では、日本代表になれず国際大会に出られませんでした。再度挑戦して、高1で代表に選ばれ、シンガポールで開催の「国際生物学オリンピック」に出場し、世界各国の代表たちと競い合い、僕は銀メダルを獲得しました。大きな栄誉でした。

 また、国内大会で日本代表に選抜されたメンバーは、オリンピック出場に向けて何度か指導やトレーニングを受ける機会がありました。その過程で甲南大学の教授が指導してくださることがあったのですが、その先生からも大いに刺激を受けました。
 海の生物のホヤの研究をされていてその話を熱心にされるのですが、まずホヤってなんだ? 貝か、魚か? 食べられるのか? おいしいの? と次々と疑問が・・・・。でも、話は続き、ホヤの研究は進化のなぞの解明に役立ち、ホヤに人間の鼻の遺伝子が見つかったとのこと。何だそれ? 貝みたいなものに鼻ってあるの?(笑)。

社会にどれだけ役立っているのかわからないけど、こんなにおもしろい研究に、好きなことに打ち込む姿がとてもステキなことだと思いました。世界的な科学論文雑誌「Nature」にホヤの論文を出されたりしているわけです。こんなふうに研究できたらいいな、そうなりたいなと、とてもやる気が出ました。

「ごまかし」ていた僕を「攻め」に戻してくれた先輩

 もちろん、ホヤだけでなく、「国際生物学オリンピック」そのもので大いに刺激を受けました。僕も世界の高みで研究し活躍したいと思いました。でも、現実には海外には行けないわけです。遠いし、行き方わからんし、英語のハーバード大学のWEBサイトは読めないし・・・・、という状態でした。

 「ごまかし」が始まります。「どうせ~」のパターンです。どうせオレは、英語ができる帰国子女じゃないし、海外に行くのは大学院からでも遅くないし、まあ研究なら東大でもできるし・・・・などと目標を下げるとともに言い訳して、できない自分をごまかして正当化していたのです。

 そして高3になりました。東大には何とか行けるメドがつき、あとは結構ヒマな学校生活を送っていました。そこへ楠木さんという先輩がやってきます。またしても出会いが僕の人生を変える転機となります。  楠木さんは15歳までイギリスにいた帰国子女で、灘高に主席合格したとてもかっこいい人だったのですが、今回は楠木さんがハーバード大学に合格し、テレビ取材で母校訪問という形で戻ってこられました。

 その中で、楠木さんと後輩たちが話すシーンがあり、その輪へ僕も代理で急に加わることになったのです。当然、海外進学の話題にもなって、そのとき楠木先輩の口から「前田なら半々でいけるよ」という言葉が出たのです。
 リップサービスだと受け取ってもよかったのですが、おそらく自分の中でそんな引き金を待っていたのだと思います。すぐに、「行こう!」と決意しました。家族には少し考えなさいと言われましたが、その日のうちにAmazonのサイトで留学のためのSATやTOEFL受験に必要なテキスト全部を購入しました。もう後戻りはできません。

 これだけではありませんが、最初のSAT試験までにはあと数週間しかありませんでした。調べると大学合否判定には課外活動等も重視され、僕の場合は英語の出来次第だとわかりました。「攻め」モードに入りました。それから毎日、片道1時間半、往復3時間の通学時間をすべて英語の勉強に当てました。起きている時間はすべて英語漬けの猛勉強でした。

いたずら好きで、自分たちの力で作り上げていくMIT文化

 晴れて合格。念願のマサチューセッツ工科大学(MIT)に到着しました。1週間ほど、新入生歓迎のイベントがあり、キャンパスには大きな手作りの木製ローラーコースターもこしらえてありました。
 さすがに世界最高の理工系大学でモノ作りがさかんなのですが、安全面は大丈夫なのかなと思いました。後で知ったことですが、ここでは学生がやってみることは大目に見て、まずはチャレンジが許される文化があるのです。

 とにかく遊び心が豊かで、ハック(いたずら)好きです。キャンパスの中心にあるドームと呼ばれる大きくて立派な建物のてっぺんに、本物の消防車やパトカーが載せられていたこともあります。その後始末に学生が警察に捕まったとき、撤去費用を結局、教授が肩代わりしてくれたという逸話もあります。これもMIT文化を象徴するものだと思います。

 一方で、勉強や研究をやるときは徹底的にやります。たとえば、年数回開催される「ハッカソン」と呼ばれる名物イベントでは、出されたテーマに対してみんなでアイディアを出し合い徹夜して、短期間でモノやアプリケーションを作り上げていき、成果を競い合います。そこから、スタートアップにつながるものが生まれたりもします。

MITでの学習研究に電子工学を選んだ理由

 さて、僕はMITで何をしているのか? 話してきましたように、僕は生物学から科学の世界に飛び込みました。でも、大学に入り、いったん立ち止まって別角度からアプローチし、視野を広げてみようという気になったのです。上級生が紹介してくれたプロダクトデザインに興味を抱いて機械工学もいいなと思いましたが、結局、生物学にも広く活用できる新しい計測科学技術を追究する電子工学を選びました。

 これは生物学へのまっすぐな「攻め」ではありません。半分「逃げ」、「ごまかし」もあったかも知りませんが、最終的にはそれを通じて今の研究分野を見つけることができました。初心を覚えていたことが、今、納得できるポジションにいられることにつながったと思います。

 電子工学で基礎となるのは回路で、これをプログラミングしてモノを動かします。いま流行りのIoTの技術を思い浮かべてもらえればいいのかもしれません。僕の専攻は信号処理で、アナログ信号をデジタルデータに変換し、再びアナログ信号に戻したり、音声や動画データをできるだけ小さく圧縮し、今度はできるだけ元のものに近づけて再現したりするという技術を学び、その理論をいかに計測に使うことができるかの研究をしています。

 勉強は大変です。優秀な人たちが集まっていますので、好成績を争っての学生同士の激しい蹴落としあいを想像するかもしれません。でも、宿題が多くて難しく、互いに助け合わなければできないのです。特にモノ作りの宿題には多いときは週に20時間、平均で週に12時間かかる課題が出ます。とてもバイトをする時間はありません(笑)。

寮生活でも研究生活でも「攻め」る

 ところで、僕はフラタニティという男子学生の寮に住んでいます。50名ほどがいて、建物の地下にはダンスフロアとDJブースが完備されたパーティールームもあります。楽しい時間も過ごせるのですが、フラタニティというのは学生のコミュニティーでもあり、共同生活の中でルール作りを求められたり、またいろいろな揉め事が起こったりもします。

 僕はあえて「攻め」として、そんな面倒事を引き受けるそこのプレジデントを務めていて、みんなの意見を取りまとめたり、揉め事の仲裁に入ったりもします。対立があれば、人の輪を大切にし、互いの言い分を聞き、対話を促し、まず相互に理解を図るように努めるのが僕の方針です。双方から「どっちの見方だ」と文句を言われながらも、次第に頼りにされるようにもなりました。

 そうすると自分にも少しは自信がつき、人間的に成長できたのかなとも思います。また、副産物として、込み入った話をていねいに聞き、また気持ちがしっかり伝わるように表現しようと努めることで、微妙な英語表現、ネイティブな言い回しの勉強にもなりました。

 むろん、本来の目的である研究の方でも一生懸命に深めていき、イメージング(画像信号処理)について毎日深夜遅くまで研究を続けました。そして新しい知見を得てその成果を論文にまとめ、専門ジャーナルへ投稿しましたが、あえなくリジェクト(没)。それなりの自信があったので、どこが良くないのかと査読者に問い合わせ、そこを直してもリジェクト。そういうやり取りが何度かあり、ついにここではダメだと、ICCPで発表することになったのです。

 結果は初めに話した通りです。学会内で唯一の学部生として発表し、最優秀賞をいただきました。そのたびに論文をよくしていったのがよかったのでしょうか、運みたいなもので、何が幸いするかわかりません。ただし、仲間からの最後の一撃が待っていましたが。ともあれ、科学の世界のスタンダード、その一端に触れることができました。今のところ、宇宙人でも来ない限り、井の中の蛙にならずに僕はいます(笑)。

「上を見据え続け」て研究していきたい

 さて、大学院に進学しての「これから」ですが、ここ1年ほどは皮膚の下を可視光で見る研究をしたいと思っています。指や手にライトを当てたとき、光が体を通り抜けるのですが、これを用いて体の中の様子を調べようというものです。

 当面はそういうことなのですが、その先のアンビシャス、野望はまだ何も決まっていません。改めてじっくりと考えてみたいと思っています。興味の第一はイメージングですが、先ほどの「人間と機械」というテーマにも興味があります。
 AI、AIとよく言いますが、AIとはそもそも知能を表します。現在の研究では、知能というよりも、いかに複雑な関数をラーニングを使って近似するかというのがAI研究のメインとなっていますが、それとは違う方向での研究がおもしろいと思っています。

 具体的目標については、いま言った通りの段階なのですが、自分の研究がめざすべき大方針は決まっています。新しい研究領域、分野を切り拓く、そして50年後の教科書に名を残すことが目標です(笑)。
 大きなことを言うようですが、これは僕のマインドセット、つまりものの見方、考え方の問題なのです。すでにある研究や論文をいわば掛け合わせて、こうも言えるよね、こんなことがわかりましたといった研究もできるのですが、僕はそうではなくて根本的に新しいことがしたいのです。先ほどの話で言いましたら、いつも「上を見据え続け」ていきたいと思います。

本当の目標に挑戦することで自己成長していく

 最後に、自分の目標達成のため、どのように向かえばよいのかをまとめておきます。実はとってもシンプルです。「攻め」ることです。目標に対してまっすぐに努力を、とてつもない努力をひたすら重ねていくことです。たとえば、東大へは普通の高校生が1日12時間、「ごまかし」なしで集中して毎日勉強すれば、おそらく通ります。

 ですが、誰もがそうできるわけではありません。「逃げ」たり「ごまかし」たりしてしまうのです。何だかんだと時間をつぶし、勉強は1日4時間。それで行ける大学を「目標」にする。自分で目標を下げながら言い訳を始めたら、それはもう「ごまかし」です。それは本当の目標ではなく、自分を甘やかしてすり替えたニセの目標です。

 大事なことがもう1つあります。目標に向かうベクトルです。いくら努力をしても方向が間違っていれば達成は困難です。たとえば、案外多いのができる問題、わかる問題ばかりくり返しているという人です。ただ勉強時間だけでなく、本当に自分に必要な勉強をしているのかどうか、努力の方向や質を自覚していることも重要です。

 以上のように、本当の目標を定め、正しく「攻め」れば良いだけなのですが、これが実は難しいことなのです。だから、目標達成には、まず自分の今の状態を常に冷静に自己分析、自己批判することが必要です。いつの間にか、「逃げ」や「ごまかし」になっていないか?と。僕は自分が言い訳を探し出したら、逆にこれが自分の本心だと確信し、よし「攻め」しかないと奮起するようにしています。

 

 こうして自分の気持ちを賢くコントロールしながら、とてつもない努力を地道に毎日進めます。「千里の道も一歩から」「ちりも積もれば山となる」と言いますが、どんな大きなことでも小さなことの積み重ねからできています。そして最後に、運も必要だと思います。でも、運ありきではありません。

 今日は、僕のこれまでをふり返り、目標に挑戦することで自己成長していくのに必要な考え方について話してきたつもりです。皆さんのこれからの成長に少しでも役に立てば幸いです。ありがとうございました。