指導者が語る合格指南

TOP > 指導者が語る合格指南 > 「中学受験公開模試(小4~6)」算数科作成チーム責任者 梁川 裕奉

「中学受験公開模試(小4~6)」算数科作成チーム責任者 梁川 裕奉 “想定外”という子どもたちの可能性のたくましさ

 指導歴は長く、一貫して中学受験理系教科指導を担当。抜群の指導実績と豊富な算数指導経験が買われ、2年前から能開の「中学受験公開模試」算数(小4~6年分)作成の全責任を担う責任者に抜擢される。メンバーのほとんどが自分より年長者でありベテランぞろいの15名からなる算数科作成チームを、クールに率いる。
 担当クラスは最難関から基本までと幅広いが、それぞれの子どもたちの「目線」と「思考法」に立った上での、メリハリの効いた楽しく力のつくその授業は評判であり、能開のスター指導者として子どもと保護者に大いに慕われる。大阪各校での指導経験に加え、「公開模試」作成で得た教訓、またその結果分析で蓄積したデータを活かしながら、現在は堺東校でホットに活躍中。

単なる学力判定ではなく、「個人別の現状診断」ができる試験を

まず、どのような手順で「中学受験公開模試」を作成しているのか伺えますか?

 はい。作成工程は、出題の意図やねらいを企画しそれを実現する問題内容を決定する「設計」段階と、作図などを含めてその設計指示通りに実際の模試問題として整え、さらに解答解説を加えて模試として完成させる「作問」段階の2ステップに分けています。問題の死命を決する重要な設計段階では2度の検討会議を設けて綿密にチェックを行い、作問後は不備などないかをより客観的に検証するため「実力テスト」作成チームのチェックを経て、「脱稿」すなわち完成となります。1本につき、1か月程度の時間をかけていますかね。その全工程の管理、および設計検討会議の主宰が責任者の主要任務となります。
 ただし、「中学受験公開模試」としての基本設計はあらかじめ決まっていますので、出題範囲や形式はそれに従って設計します。具体的には、毎回「学習指導要領」の進度に基づき出題しますので、範囲はその時点での学校の既習範囲すべてとなります(小6は小学校内容すべて)。大問数は7つ、は計算問題、はいわゆる雑問、雑多な小問ですね、と決まっています。
 また、「公開模試」の目的としては受験者の学力判定、地域有名中から大阪星光学院中・東大寺学園中レベルまでの算数学力の現状を適切に判定するということがあります。そのため、それらの中学入試を参考に、各中学を意識した問題なども盛り込みます。もちろん単なる学力判定ではなく、「個人別の現状診断」となるよう、マスターできているテーマやスキルの確認とともに、弱点や克服課題も的確に摘出できる試験であることをめざしています。実際、個人別の小問別比較データが成績表としてフィードバックされています。
 あと、私たち全員が各校の指導者でもありますので、能開ゼミカリキュラムの流れ、昨年度の類似問題での正答率データなどをにらみながら、「この学年のいまの課題は何か?」という問題意識に基づいた出題なども行います。そういう「生の感触」をこの模試にどれだけ盛り込むことができるかが、私たちが「公開模試」を作成している意味でもあると考えていますね。

より適切な問題を求め、算数の「職人」たちが延々と議論を尽くす

なるほど、たいへん緻密な仕事だとよくわかりました。作成上ではどんな点にこだわりをもっていますか? それから、設計検討会議での苦労など、あればお聞かせください。

 こだわりというか、いつも課題となるのは「想定正答率」ですね。つまり、子どもたちがその問題に対してどれくらいの割合で正答を出せるのか出せないのか、です。算数科では過去模試での膨大な正答率データを蓄積していますので、類似問題であれば、さほど苦労もなく正答率を想定することができます。ところがオリジナル問題、すなわちパターン自体を新規に設計したような問題では、当然のことながら何のデータもないのです。
 この想定正答率に対して、実際の結果が大幅にかけ離れることは、特に厳密さが強く要求される私たち算数科には絶対に許されません。設計意図からズレてしまうからです。せいぜいプラスマイナス5%が限度ですね。まあ、そういう意味では、想定通りの正答率が出る問題を設計すること、これがこだわりです(笑)。
 設計検討会議での苦労ですか? 私は、自分より年上の人が多いということについてはそれほどプレッシャーを感じていません(笑)。むしろ、算数科チームは言わば「職人」の集まりみたいなものなので、いま言いましたオリジナル問題の想定正答率をめぐって、設問文の表現やレベルの微調整について侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論になり、その収拾がたいへんですね。
 たとえばオリジナルの大問を作り、その中に3つの小問を設けたとします。こういった問題では易しいものから難しいものへと並べ、順次解くことによって最終問に至れるようにし、当然正答率も下がっていくように設計します。最難問で正答率およそ5%です。
 まず、設計のねらい通りに各小問は順次適切な問題になっているか? その小問を解くことで次の小問へと正しく導かれているか? 各小問は本当にその正答率になるか? 図や文の表現法はこれで適切か? もし設計通りの正答率にならないなら、どこをどう改訂すればいいか? 等々。各人「職人」と呼ばれるだけのことはある「こだわり」の応酬で、議論は延々と続くのです(笑)。毎回、より適切な問題を求め、算数の「職人」たちがいつ果てるとも知れぬ議論を尽くしていると言っていいと思います。

「作業力」「試行錯誤力」がある本物の算数力を身につけてもらいたい

なるほど。その結果についてはどうなのですか? また、そこからわかることなどありますか?

 試験後の検証は、「公開模試」実施当日のうちに行っています。想定正答率と実際の正答率との比較分析ですね。ほぼ誤差範囲内です(笑)。
(※「公開模試」の結果は、アノトペンという独自の採点システムで即時集約されています。)
 しかしこれまでには、意外な結果となってしまったことももちろんあります。やはりオリジナル問題を中心に、自分たちで独自に工夫した場合ですね。照らし合わせるべき過去の正答率データがない場合、最終的には私たちの感覚勝負になってしまいますが、そんなとき、想定通りにはいかなかったという例があります。ほんのちょっとした図の示し方や計算問題での数の置き方の違いなどで、想定を大きく変えてしまうことがあります。「ああこんなところで子どもたちはつまずくんだ」と改めて教えられます。
 反対に、子どもたちのすごさや可能性を強く感じさせられるケースもありますよ。私たちが思いもよらなかった別解を試験中に編み出してしまうのです。そうして、想定より実際の正答率が大幅に上昇したことがあります。いずれにせよ、これらは貴重な「正答率回収データ」として、次回以降の作問に活かしていきます。
 また、試験で判明した「現状診断」に対してのアクションこそ大事ですので、子どもたちの振り返り用に「やり直しシート」というものを試験後に毎回配付していて、各人の現状に応じての復習が進めやすいようにしています。

 子どもたちの答案を長年見てきて思うのは、問題を解いていくときの「作業力」というか、がむしゃらさやパワーですね、その低下を強く感じています。汗にまみれることを避けるというか、きれいな解き方ができなければ、すぐにあきらめてしまう傾向があります。
 たとえば数の規則の問題で、条件にあてはまる50番目の数を問う問題。きれいな解き方もできるのですが、それができなければじかに書き出していけばいいのです。あえて、そういう意欲を問う問題も出しています。また、同様な傾向として、面倒がって作図をしない子が増えていますね。そういう子はコンパスの使い方もヘタな場合が多いです。図形の問題ではあえて不正確な図だけ示して、自分で作図しないと正解できない問題も出します。入試でも同じことが問われていますから。
 そういうことも踏まえながら、いま算数チームでは、小4・5年「公開模試」にオリジナル問題を増やしていく試みを始めています。正答率がぶれてしまうかもしれないという危険をあえて冒しながらも、「試行錯誤力」をぜひとも養ってもらいたいと考えるからです。「算数オリンピック」で出題されるようなタイプの問題です。たやすい方、軽い方へと流されがちの時代にあらがい、能開センターでは本物の算数力を身につけてもらいたいと考えています。

問題への「構え」、「自分で考える力」、そして生きる力

次に授業について伺いますが、指導ではどんなことを心がけていますか?

 「基本」が大切だと考えています。算数で言えば、まず計算ですね。ここで作業力を、スピードと正確さを身につけること。そして割合と比の考え方。これらがあって、はじめて入試の図形や速さの問題にも立ち向かうことができます。「基本」が身につくと、問題への「構え」が持てるようになります。空手の構えと同じですね。このたとえで言いますと、相手の動きに応じて、「次にどうすればよいか」を自然に身構えられるようになることが大切です。ただし、「構え」は全身的なものですよね。ですから、単に問題を解くことだけに限定できるものではありません。もっとトータルに、学習姿勢全体に関わってくるものです。
 私は、印象に残る授業、楽しい授業を心がけています。クラス全体の学習効率を最大限に高めるためです。おとなしい子も十分に参加でき、一つの問題になるべく多くの子どもたちが発言できるような雰囲気を作り出すことに努めています。授業中はそういうふうにしてそれぞれが頭をしっかり働かせることが大事だと考えているからです。しかし授業後は顔が一変し、厳しい先生になります(笑)。今度は、指導者に頼らず、まずは一人で考えることが大切だと考えるからです。
 私のこういう変化に気づける子、自分でけじめをつけられる子が、自分で考えられる子です。それはてきぱきと問題を解ける力ともつながっています。さきほどの「構え」がこういう形で現れているのです。私が育てたいのは、算数に限らず、何事に対してもこういう「構え」が身についた子どもたちです。少し大げさですが、これが生きる力なんだと考えるのです。
 難関中学の入試問題で得点を上げるには、「考える力」自体が必要です。言わば「新しい構えを自分で見つけ出せる力」です。さきほどの「作業力」と同様、いまは「自分で考えない子」が増えています。解き方、解法を、それどころか答えだけをすぐ求めるのです。たとえば、私が担当している「星光・清風南海(S特進)中算数特訓」でのねらいは、自分の頭で考えること自体です。問題演習をして、その解説が中心の授業と子どもたちは思いがちですが、そうではありません。演習で「考える力」を磨くこと自体が目的なのです。
 無論、なかなか一挙に「考える力」が身につくわけではありません。だから、そうできるよう徐々にうまく導くことが私たちの仕事だと心得ています。質問への対応もその子の段階に応じて、変わってきますね。まず、考えた子は必ずほめてあげる。次にヒントを出し、気づかせる。たとえば「ここに線があるけど、どう思う?」など。試行錯誤させることが大事だと思っています。そこでも「基本」「構え」がどれだけできているか、それが「自分で考える力」と密接に関係しています。

家庭の全面的な「応援」を受け、勢いのある子が合格する

最後に保護者の方へのアドバイス、今後への抱負などお願いしたいのですが。

 そうですね。保護者の方々にはお子さまたちの算数における奮闘ぶりをしっかりご覧いただきたいと思います。結果としての得点ではなく(もちろん得点も大事ですが)、悪戦苦闘のプロセスとしての答案を見てあげてください。子どもたちは誰にほめてもらいたいか、申し上げるまでもありません。彼ら彼女らは苦労して、すばらしい解法も身につけています。ほめてあげてください。子どもたちを認めてあげること、これが「応援している」ということです。
 実際、家庭の全面的な「応援」を受け、勢いのある子が合格します。ご家庭として勢いのある家の子が入試に強いとも言えます。それは保護者の方が「その先」を見られているかどうか、入試後のお子さまの姿を見られているかどうかだと思います。入試は大事ですが、通過点にすぎません。入試は、そういう大きな展望の中で「力を出し切れるか」どうかなのです。
 反対に、私は子どもたちに保護者の方々に感謝しなさいといつも話しています。いま受験勉強に専念できることは決して「当たり前」のことではないと言うのですよ。たとえば、能開に通うにはお金が必要です。それを誰が出してくれているのか? 美味しいお弁当は誰が作ってくれているのか? などですね。人間としての根本的な「構え」に関わることじゃないでしょうか。
 指導クラスについて思うことなのですが、強いクラスづくりを心がけています。どんなクラスかと言うと、スクラムを組んだクラスです。夏をすぎると、急に受験プレッシャーが子どもたちを襲うようになってきます。人間は一人ひとりは弱いものです、ましてや子どもたちは。ついつい弱気になって、とにかくそこから逃げ出したくなります。そんなとき、引き戻してくれるようなクラス、自然に互いに励まし合っているクラス、そういうクラスを今年も作っていきたいと思います。そして子どもたちをそういうスクラムを組める子になれるよう導いていきたいと思います。

 最後に正答率の話に戻りますが、これはなかなか正直な数字です。実は、夏明け秋口の小6「公開模試」の想定正答率、特に大問1・2の正答率の想定が毎年難しいのです。これは夏の間の成果、会員生の夏のがんばりで“想定外”の出来となってしまうからなのですが、9・10月の時点でよくできるようになっている子が最終的に入試でも強いですね。
 最後の12月実施「公開模試」の時点では、ほぼ全員がよくできるようになってきます。ですが、秋口の時点でよくできるようになっている子が第一志望校に合格しています。これは計算や雑問は夏に一通り終え、秋には次の課題に取り組んでいけたからだと思います。こういう心積もりで、この夏の学習を進めてもらいたいなと思います。
 「公開模試」が入試本番ではありません。私たちの想定正答率がはずれることがあるように子どもたちの可能性は読み切れません。私たちの想定を裏切る、うれしい大誤算も十分あり得るのです。私はそこに子どもたちのたくましさを感じます。ただし、あきらめず最後の最後までやり抜くことが前提ですが。私たちも最後の最後まで精一杯の指導をやり抜きたいと思います。

ありがとうございました。