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テキスト編集チーム国語サブリーダー 東口 聡 国語嫌いの子が興味をもち記述力までつくテキストをつくる

入社後、奈良・大阪の各教室でわかりやすい国語指導を行う一方、国語教材の企画編集に携わる二束のわらじを履く。この間、中学受験公開模試や実力テストを作成、また国語大全(小6新テキスト)、小4・5新テキストの企画編集に従事する。構想から5年の歳月を要した新テキスト群を、2011年より順次リリース。その傍ら、第一子の愛娘が2年前に誕生。公私ともに生活を充実させ、現在、西大寺・生駒両校で国語指導、また入試分析会や各種説明会で活躍しつつ、国語テキストの進化にますます磨きをかける。

カンや経験ではなく、教えたり学んだりできる読解スキルを

新テキストのリリース、おめでとうございます。これらのテキストはどのように生まれたのですか。

 主要中学校の毎年の入試問題全問を精緻に分析する独自の「能開の入試分析」がちょうど2000年から始まりました。この成果を受け、算数テキストが全面的に刷新され、2004年から「算数大全」としてリリースされ始めました。私は入社以来、国語のテスト作成をしていたのですが、わが国語科でもテキストを一新しようという機運がしだいに高まっていきました。
 ちょうど6年ほど前になりますでしょうか、能開全指導者が集まる集中会議がありまして、そこで更なる指導力向上のためのさまざまな議論が行われたのですが、国語科では「いかなる教材、いかなる指導が子どもたちに力をつけるか」が改めて議論となったのです。
 国語という教科は他教科とは異なり、教科力の身につき方がいささかわかりにくいですよね。漢字や語句なら明快ですが、読解力となると、どうすれば身につけられるのか、どうすれば効果的に力を向上させることができるのか、それは私たち指導者にとっても率直なところ大変な難問でした。
 でも「入試問題分析」作業を通じて、私たちは一歩一歩その解決への糸口をつかみ始めていました。国語の読解力をそれまでの個人的な「カン」や経験ではなく、「教えたり学んだりできる技法(スキル)」として取り出そうと奮闘していたのです。
 集中会議では、子どもたちの身になって、問題文を読み始めてから、設問を解き、解答を書くまでの各プロセスの検証から始めました。例えば、文章全体の文字総数は読解にいかなる影響を与えるのか。当然、長文ほど難しいということになりますよね。でも、テーマ内容によってはどうか。また、その中で用いられている語彙のレベルによってこそ難易度が左右されるのではないかなど。
 設問については、その形式に注目しました。空所補充、ぬき出し、選択肢、文整序や脱文挿入、そして記述。同時に解答を導き出すためにどういう知識や能力が求められているのか、例えば空所補充といっても接続語なのか副詞なのか、選択肢といっても人物の心情理解なのか、内容真偽なのか、さらに記述といってもぬき出して文末を少し変えるだけでよいのか、文脈を解釈して自分でまとめなければならないものかなど、そこでは設問形式と組み合わせながら多様な解答技法(スキル)が要請されていることをみんなで確認していきました。
 たった数日間の研修でしたが、これは私たちがこれからやらなければならない課題を明確化できたとても貴重な時間となりました。すなわち、「スキル」の徹底解明とその伝授法の確立です。もしこれを体系的に整備できれば、画期的な国語教材が誕生することになるぞ!と私たちは、中でも私は興奮しましたね(笑)。
 その後、議論は社内イントラネットの「国語科掲示板」へと場所と形をかえながら、引き継がれていきましたが、私もその中にいました。実は、私は早速、ぬき出しや指示語の問題を解く手がかりになる「言いかえスキル」などを練習する問題を試作し、その効果を子どもたちに試してもらったりし始めていたのです。こういった私案を「読解スキル演習案」として、この掲示板に初めて発表したのはこの私です。言い出しっぺというわけです(笑)。
 すると、堰を切ったように続々といろいろな「読解スキル演習案」が各有志から発表されるではありませんか。私はとても楽しくなってきました。掲示板上での議論がどんどん盛り上がる中、読解スキルを柱にした「新国語テキスト」を作ることが正式に決定し、その有志たちが私も含めて編集チームに選抜されました。その後メンバーの入れ替わりはあったのですが、私は一貫してこのプロジェクトに参画してきたというわけです。

読解スキルの集中演習で確実な読解力をスキルアップ

なるほど。しかしそれからが大変だったのじゃないですか? その後をお聞かせください。

 まず、いま「国語大全Ⅰ」と呼ばれている小6用の新テキスト、開発段階の当時は「Lテキスト」と呼んでいたテキストの編集から始めました。素材文の収集、その内容やレベルに応じた整理・分類、読解スキルの整理と体系化、そして具体的なスキル演習問題の作成作業と、一歩一歩進めていきました。
 そうですね、いま振り返るとちょっと気が遠くなりますね(笑)。あらかた素材文が決まったところで、著作権絡みで大幅に差し替えになったりもしましたし…。

授業だけでなく、校運営業務もされているとか。一体いつテキスト作成はしているのですか?

 その合い間です(笑)。スケジュールを決め、校運営、テキスト編集業務ともに滞らないように十分配慮しています。もちろん、メンバーが集合してのミーティングも行いながら、作業は進めていきました。
 実際の作成では、読解スキルを軸にしていますが、それぞれのスキルテーマに適した文章、素材文ですね、これの選定から始めます。その読解スキルで問えなければ意味ないですから。素材文は入試での出題文のほかに、図書館などへ出かけて片っ端から探しました。これらをスキルテーマごと、L50・L57・L62という3レベルに配分します。
 そして、読解スキルを意識的に盛り込んだ設問作りに取りかかりますが、その前提条件は言うまでもなく入試問題です。入試分析を通じて、各中学の特徴を私たちは熟知しています。例えば、同じ選択肢や記述問題と言っても、東大寺・西大和・大阪星光それぞれで違います。これを踏まえながらスキルレベルを分類し、レベルに応じた読解スキルで設問を作成していきました。テーマごとの構成は、読解スキルのポイントを解説した「学習の要点」、スキルの型を学ぶ「演習」、長文の中でスキル力を試す「応用問題」(L50・L57・L62の3レベル)としました。
 こうして、「Lテキスト」の骨格と一部、つまりプロトタイプが出来上がった2008年夏、北京オリンピックが開催中だったのでよく覚えているのですが(笑)、中間報告のプレゼンテーションを行いました。その中でこんな話をさせてもらいました。
 ちょうど男子陸上の400mリレーで日本チームが初の銅メダルを獲得したのです。トラック種目でのメダルは80年ぶりの快挙で、勝因は「世界最速のバトンパス」と報道されました。実際、アメリカなど強豪国はバトンパスのミスで、決勝までに姿を消したのです。日本チームはバトンパスのスキルに特化した集中トレーニングを重ねていて、本番でもすばやく確実なバトンの受け渡しで見事メダルを獲得できたというわけです。これと同様に、一つひとつの読解スキルの集中演習が確実な読解力をスキルアップさせていくと話を結んだのです(笑)。

時代を映す最新のテーマ分類と解説をもう一つの武器に

 「国語大全Ⅰ」は以上のように読解スキルを機軸にしたテキストですが、もう一つの軸、すなわち「文章テーマ」で編集したものが「国語大全Ⅱ・Ⅲ」です。
 入試での出題文は、特に論説系の文章がそうなのですが、大人が読んでも難しいような内容のものばかりです。しかし論説文で言いますと、例えば日本と欧米との比較文化論、日本語から見た日本人論、環境問題など、やはり頻出テーマというものはあります。入試でその文章に出合った際、それがどんな内容であるのか、その結論はどうなることが多いのかなどをもし知っていれば、自ずと読解にも役立つだろう、武器になるだろうと一つには考えたのです。
 ただし、それだけではありません。それは、なぜこのような文章を各中学校がわざわざ出題するのかに関わります。各中学校は、自校へ入学するにふさわしい「小学生としての教養」を求めているのです。この考え方には私たちも賛同します。私たちも受験準備を通じて「入試を超えての教養」をぜひ培ってもらいたいと願っているからです。だから私たちの国語の授業では、時には単なる読解を超えてそのテーマの内容に深く踏み込んだ解説を加えることもあります。
 テキストにはテーマごと、まず「学習の要点」というページがあります。「国語大全Ⅰ」なら読解スキルの要点を例題付きで解説していますが、「国語大全Ⅱ・Ⅲ」ではそれが各文章テーマの解説と例題ということになります。これがおそらく他の教材ではまずお目にかからない、大胆に突っ込んだまとめになっています。もちろん、それは入試問題を徹底分析したからこそ初めて出来たことなのですが。
 文学系の文章、つまり物語文分野もユニークなテーマ構成になっていまして、「子どもと子ども」「子どもと大人」「家族」などがあるのですが、これらのテーマが物語文中でどういう展開を見せるのかまで分類しているのです。「子どもと子ども」の中には、定番の「友情」の誕生や崩壊のほかに、「恋愛」の芽生えや破局も入っています。
 言っておきますが、これは奇をてらったのではなく、東大寺学園をはじめ難関校でも採り上げられるテーマなのです。ところが、その男子校を受験する当の男子がからっきしこのテーマに弱いのですね(笑)。入試演習での正解率を見ますと、女子に対して男子は低いことが明らかです。ここでは各中学校は受験生の「小学生なりの成熟度」、わかりやすく言うとオマセ度を見ようとしているのだと言えます。
 それから、「家族」のテーマでは、離婚や母子家庭や再婚など家族崩壊やその再構成、また「子どもと子ども」にいじめを盛り込むなど、ここ最近の社会や時代を反映して作成される入試問題に真に密着した内容となっています。
 一体、国語とは奇妙な教科です。科学や社会学や歴史学、言語学や哲学の知識を求めたり、老若男女の喜怒哀楽の気持ちを理解せよと要求したりするのですから。私たちも参照させていただく文芸評論家の石原千秋氏(早稲田大学教授。『秘伝 中学入試国語読解法』『中学入試国語のルール』などの著書があり、中学入試国語にも造詣が深い)によりますと、国語とは道徳教育でもあるということです。なるほど、友情や家族愛ばかりか、恋愛を含む豊かな感情や人間性を育むことこそ、子どもたちの成長だと考えれば納得がいくのではないでしょうか。
 そうそう、「国語は面接試験です」と明言なさる中学校もあります。「漢字はていねいに」とはそういう意味でありますし、記述答案にもそんな心積もりで臨むことが大切ですね。

ユニークな「演習」「基本問題」で国語嫌いが得意に

国語は奥が深いですね。新テキストの反響はいかがですか?

 はい。なかなか保護者の方々にテキスト内容にまで関心をお持ちいただくことは難しいのですが、たまたま語学関係のお仕事をなさっていて、何かつながりがあるのでしょうか、このテキストを興味深く手にとってくださった保護者の方がおられ、「国語大全Ⅰ」の「同格・対比・因果」のテーマについて「まるで語学か、論理学のテキストみたいですね。でも、言いかえ問題を深く分析すれば確かにこうですよね」と、ご賛同と受け取ってよいのかなと思われるコメントを頂戴したことがあります。うれしかったですね(笑)。
 子どもたちからはいろいろありますよ。これに絡めて、小4・5年の新テキストについてお話させてもらいます。
 小4・5年ともに、「国語大全Ⅰ」型と言いますか、読解スキルを機軸に編集しました。ただし、各学年段階に応じてシフトダウンさせ、上位学年で本当に基礎となる読解と解答作成上のスキル(「型」と呼んでいます)をスモールステップで習得できるよう工夫を凝らしました。
 各テーマにある「演習」がそれで、「学習の要点」で確認した基本スキル(型)を一つひとつ、まるで算数の問題のように練習していくものです。例えば、「昨日ぼくは本を買った。」という文を、「本」を文末にして書き換える練習です。これだと、「昨日ぼくが買った本。」となりますね。こういう練習が記述問題を解く際、重要なスキルであることはお分かりになるでしょう。
 こんなスモールステップのスキル練習が大問でおよそ十数題並べてあります。奇数大問と偶数大問がほぼ同じスキルパターンの練習でして、例えば奇数大問を授業でやり、偶数大問は宿題にというような使い方ができるようにしてあります。
 小6用の「国語大全」に続いて編集したのは小4の新テキストでした。このテキストの特長の一つは素材文の配列にあります。同じ本から文章を数点採って、載せています。子どもたちから「あれ、これ前に読んだものの続きだ」など、うれしそうな声が上がります。中には続きが読みたくて、テキストを配ったその月にテキスト全部を読んでしまった子もいます(笑)。さらにもっと読みたくてその本を買って読んだという話も聞きます。うれしいですね。かえって小出しがよかったのかもしれません(笑)。
 小5テキストの方は3学年の中では一番あとに編集したこともあり、もっといろいろな工夫が盛り込んであります。小4テキストはテーマごと、「学習の要点」「演習」「練成問題」「実戦問題」で構成しているのに対して、小5テキストは「学習の要点」「演習」「基本問題」「練成問題」「実戦問題」「重要語コーナー」と構成しています。
 「基本問題」には[準備問題]というものがありまして、これは国語が苦手な子どもたちのために設けました。国語が苦手な子どもたちは、そもそも文章の基本が読み取れていません。そこで、通常の問題を解く前にその「準備」として、登場人物や場面、また文章の話題など、言わば5W1H的な初歩を押さえてあげることが有効です。そういう問題が[準備問題]です。これをやった後、通常の問題となるのですが、これが全く同じ文章を素材とした問題となっています。
 実は私は生駒校の小5最難関クラスを、夏までの期間、いま紹介しました「演習」と「基本問題」だけで指導しました。基本を徹底することが第一と考えたのです。すると、子どもたちは「演習」を算数の計算問題のように、あるいはゲームのようにとらえ、それまで国語が苦手で記述が全く書けなかった子が記述を書けるようになったのです。同じことは新テキストで指導している西大寺校の小4生にも起こり、「演習」「基本問題」を突破口に記述問題にまで取り組めるようになりました。
 ほかにユニークなものでは、出題者の設問意図を理解する「採点基準」というスキルテーマもあります(笑)。
 あと、「重要語コーナー」ですが、論説文で頻出のキーワード、物語文で頻出の心情語などを毎回数語ずつ採り上げて解説しています。心情語とは「うれしい」「悲しい」など人物の気持ちを表す言葉ですが、「やるせない」「うしろめたさ」など大人でもうまく説明しかねるような言葉もありますよね。それを全部で200語盛り込みました。入試物語文はこれで完璧です。

国語テキストのさらなる進化が私のライフワーク

ユニークかつ斬新、本当におもしろいテキストですね。最後に今後の抱負をお願いします。

 私は国語テキストの編集と、授業や校運営を兼務していますが、実はこれらを循環させているのです。テキスト編集で見つけたスキルやノウハウを授業に生かし、授業でその検証を行いながら次のヒントをもらう。そしてそれをまた次のテキスト作りに生かしていく、ということです。
 実際、西大寺校と生駒校で子どもたちから、また同僚の先生方から多くを教えてもらい学んでいます。これも校運営で深く校業務に関わっているおかげと思っています。そう考えると、私の兼務業務には一切のムダがないのですよ。
 こんなことを言うと、ますます働かされそうで自分でもコワイのですが(笑)、私はもっともっと良い国語テキストを作りたいですね。子どもの思考プロセスを一つひとつさらに解明し、誰でもが国語読解力を身につけることができる、そういうテキストを作り出したいです。具体的には「国語大全」を含めた新テキスト群をさらに進化させていくこと、これが私の言わばライフワークです。

ありがとうございました。