TOP >「国際化学オリンピック」銀メダリスト・能開OBインタビュー

  「国際化学オリンピック(IChO)」は世界中の高校生が一堂に会し、化学の実力を競い合うとともに交流を図る年一度の国際大会です。第48回となる2016年はジョージア(旧グルジア)の首都トビリシで67か国・地域から264名の高校生たちが参加して7月下旬に開催されました。  各国からは選抜された4名ずつが参加できますが、今年の日本代表生徒4名のうち2名が灘高校2年生で、どちらも能開センター2012年卒業OBでした。両君は今大会で健闘の結果、それぞれ銀メダルを獲得しました。能開センターではこれを記念し、両君を招いてのインタビューを行いました。

「上には上がいる」とおのれを知り、世界の人たちと交流できたオリンピック

銀メダリスト

――銀メダル獲得、おめでとうございます。

海士部 ありがとうございます。
 ありがとうございます。

――国際化学オリンピックに参加してどうでしたか?

海士部 僕の結果は残念ながら銀メダルでしたが、化学オリンピックの競技問題にはしっかりと手応えを感じ、それを楽しむことができました。また、世界の同世代の人たちの中での自分の力に、ある程度自信も持てました。  その上で、銀という結果に納得はいきます。やはり金メダルを取れた人は化学的な思考や問題処理能力において、僕よりも上でしたから。

――かつて灘中入試をトップの成績で合格した海士部君をしてそう言わしめるとは…。

 僕も銀メダルでした。化学オリンピックは楽しかったですが、一方で化学については自信があるつもりだった自分がまだまだだなと痛感させられました。海士部君も言うとおり、上には上がいくらでもいます。
 たとえば、日本代表チームでただ一人金メダルを獲得したS君なんて、化学ばかりでなく、国際地学オリンピック日本代表であり、アジア太平洋情報オリンピック銀メダリストと、サイエンス全般にわたる、言わば科学の天才です。彼に比べれば、僕なんてまったくの凡人です(笑)。
 でも、こういう人たちといっしょに競い合い、同じ時間を過ごし、知り合えたことがこの化学オリンピックの魅力であり、参加できた成果だと思います。大好きな化学で日本代表として世界大会にかかわれたことで、化学を学ぶ意欲がますます高まりました。
海士部 同感です。自分の力不足を知ると同時に、化学への探究心をさらに強く抱きました。

銀メダリスト

――海外の人たちとの交流はどうでしたか?

海士部 海外の人たちはみんなフレンドリーでノリが良い、というのが僕の印象です。積極的で、アニメとかを含めて日本の文化や歴史にとても興味を持ってくれていて、中にはアニメで学んだらしい日本語で話しかけてくれる人もいました。だから、こちらからは踏み出していくちょっぴりの勇気があればいいのだと思います。

――その勇気は出せましたか?

海士部 十分に、とまではいきませんでしたけど(笑)。あと、英語が話せることも大事なのですが、日本に興味を持ってくれている彼らの質問にちゃんと答えられるよう、日本人として日本の文化や歴史をしっかりと学んでおく必要を強く感じました。
 僕はこの大会で自分の英語力不足を痛感したのですが、自分が苦手だということだけじゃなくて、海外の人たちが日本のアニメなどからも学んでしまうような外国語学習に比べて、なかなかそんな風にはならない日本人の外国語学習には課題があるなと率直に思いました。

難関を突破し参加したオリンピックの先に見える化学のすばらしい魅力

海士部

――国際化学オリンピックの日本代表には、どのように選ばれたのですか?

海士部 まず、化学オリンピック前年に「全国高校化学グランプリ」という、全国で3500人くらいの高校生が参加する国内大会があります。そこで上位者は表彰されるとともに、その中から「国際化学オリンピック」の代表候補として20名ほどが選抜されるのです。
 今年は22名が代表候補となり、そこからさらに選抜が行われ、11名、6名と絞られていき、最終的に4名が選ばれたのです。

――すごいですね。代表になれる自信はありましたか?

海士部 化学グランプリの一次選考はマークシート試験でした。僕は化学、それに数学や計算もある程度はできましたのでここは大丈夫だと思いましたが、約80名が残った二次選考以降は合宿しての実験もある選考試験となり、安直な希望だけではおぼつかなくなりました。もちろん、化学オリンピックに出たいという思いは強くありましたが。
 長丁場となり、正直、代表候補となってからも本当に代表になれるかどうかわかりませんでした。とにかく頑張るしかないと思い、1つ1つの関門突破だけを考えて取り組んできて、気がつくと代表になれていた――という感じです。
 僕も同じ感じですが、僕はとにかく化学、ケミストリーが大好きなのです。化学オリンピックに出るために化学を勉強したのではなく、化学が好きなので自然と化学グランプリに参加し、化学オリンピックに出たいと思うようになったということです。

――そんな化学の魅力って何ですか?

平

 化合物が融通無碍に変化していく、どんどん変わっていく面白さです。化学反応、化学変化の展開にとてつもない多様性があり、可能性が無限大なのです。たとえば石油から様々な化合物が取り出されていきます。電気を帯びたもの、磁性を含むもの、触媒となるもの、また発光する有機ELなど…。どうすればどのような化合物が生まれるのか、まるでパズルなのです。それを考えることが僕にはとても楽しく、すばらしく魅力的です。

――かなり、のめり込んでいる感じですね(笑)。

 はい。この先、ケミストリー1本で生きていきたいと考えています。

――ほう、どんなことをしたいのですか?

 化学テーマとしては、光、有機化学、コンピュータ利用の計算、有機金属、触媒などに興味があります。それらの研究成果を駆使して、将来は何らかの形で人の役に立つ化学の仕事がしたいです。すべてはそこへつながっています。

――すばらしい考えです。

海士部 僕の場合は、現段階では化学の面白さ自体にただ惹かれているところです。あ、申し遅れましたが、僕は灘高校の化学研究部で部長をしています。
 申し遅れました。同じく僕は副部長をしています(笑)。

――そもそも二人は、どのように化学に興味を持ったのですか?

 僕の場合、中2のころ部室で見つけた有機化学に関するある1冊の本でした。僕の中で化学反応をおこして、「ビビーッ!」と来ましたね(笑)。それからはもう化学一直線です。
海士部 僕も大いに興味をそそられたのは化学の本でしたね。やはり中2のころです。

――学校の授業や実験ではないのですね。

海士部 まったく無関係というわけでもないのですが、灘高校はSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校でもありませんし。また、実験はいろいろと大変で、簡単にできるものではないのです。化学薬品の安全管理や廃棄物の環境問題への配慮も必要ですし。
 そうなのです。だから化学オリンピックに向けての中では、京都大学の研究室でいろいろ実験をさせてもらえる機会があり、おかげでたいへん役立てることができました。

頑張った分だけ自分の身になるから、高い志で高い目標をめざそう

――二人の卒業は4年前のことですが、能開センターで学んだことが今も活かせていることってありますか?

海士部 草津校の小林先生の授業を思い出します。「自力突破」です。問題をよく考える力とともに、楽しんで解く力を磨けたように思います。
 それに、先生方の、小6の枠をどんどん超えて拡がっていく授業展開が僕にはとても魅力的でした。今から思えば、あれが化学への興味の始まりだったのかもしれません。あのころ、原子やイオンについても触れてあった「理科資料集」を興味深くながめていました。
 僕は、能開センターで中学受験に向かう中で「考える力」を育めたと思っています。立ちはだかる中学受験という大きな壁に挑む中で、知識を越えて、考えること自体の大切さを学びました。それがサイエンスやケミストリーでの論理的思考力の形成につながっていると思います。

――最後に、能開センターの後輩たちへメッセージをお願いします。

 みんなに「失敗をおそれずにチャレンジしよう!」と言いたいです。自分自身の経験から言うのですが、結果ではなく中学受験で努力したこと自体が財産になります。志望校めざして一生懸命努力したことは、たとえ結果がどうであれ、そのプロセスの中で学んだ知識と思考力は間違いなく自分の身につきます。僕自身そうですが、それがいまの自分の力の源泉、ベースとなっています。
 そして中学進学後は、自分が6年間かけてしたいことをなるべく早く見つけて、再びチャレンジしてください。僕の化学のようにです。僕は化学と中2で出合いましたが、できればもっと早く出合いたかったくらいですから。
海士部 志を高く強く持ってください。受験はその志の高さに見合ったものになります。高い目標こそがかえって成績の安定を実現します。小さな一喜一憂が無意味になるからです。また、モチベーションやメンタリティー次第で暗記力や記憶力すら、まるで違ってきます。
 超具体的は話になってしまいますが、αクラスの男子の人はぜひ灘中学をめざしてください。なぜなら灘中学高校は平君がいま言った意味で日本一自分自身にチャレンジできる学校だからです。そういう自由に満ちた学校なのです。
 そして入学し、もし化学に興味が湧いたなら、迷わず化学研究部へお入りください。来年なら僕たちが高3の先輩として待っています。
 待っていますよ(笑)。

銀メダリスト
能開センターOBで記念撮影
左から
海士部 佑紀君
平 翔太君
前田 智大君(マサチューセッツ工科大学在学中)
海士部 宏紀君(海士部 佑紀君の双子のご兄弟で、灘高校2年在学中)

――今日はありがとうございました。