能開特集

TOP > 記憶と忘却のメカニズム

解説

 もし、2番目に暗記する数字の文字列がつぎのようなものなら難度はさらに上がっていたのですが、その理由はなんだかおわかりになりますか。

18273645

そう、こちらの方が一般的に覚えにくい文字列だからです。
その覚えにくさでいいますと、もし4番目の文字列が2番目にきていたらどんな現象が起こっていたかというのがこの実験のポイントです。覚える気がなくなってしまう可能性が極めて高くなっていたはずなのです。当然、後に続く文字列への集中力は完全に散漫になってしまう。それが普通です。

実はこんなからくりがあるのです。

人間の「瞬間記憶」の限界は、8この文字列によって確認することができます。実際、聞いた電話番号を覚えてかけるというシチュエーションを想像していただくとよくわかります。電話をかけて用事がすむとその電話番号になんらかの特徴でも見つけていない限り、きれいさっぱり忘れてしまわないでしょうか。そこにヒントがあります。
まず最初の文字列、「12345678」ですが、これは覚えるまでもないと感じられたに違いありません。そうです。‘8’という1文字を暗記するのと同じなのです。専門的にはこれを1チャンクの文字列と呼びます。チャンクとは‘まとまり’とか‘かたまり’という意味です。すると、2番目の文字列の場合は、奇数・偶数2つずつのかたまりになっていますので、4チャンクの文字列ということになります。そして3番目ですが、実は「4312」「7856」の2つに分けることができる文字列なのです。ここでお気づきいただける方も多いと思います。そうです。3番目は、九九を2つ並べただけだったんです。「しさん12」「ひちは56」と読んでいただくと2チャンクの文字列になっていることがはっきりすると思います。

ここで大切なことは、チャンキング(かたまりを作る)するときには必ず下線部分のように意味づけ(コーディング)をしている点です。その瞬間的なコーディングの可否が記憶の成否を決定づけているといってもいいようです。2番目の文字列に13245768を使うのと18273645を使うことの差もここにあります。どちらも4チャンクの文字列であるにもかかわらず、18273645は、九の段の答を並べていますので、13245768よりも気づきにくくなり、コーディングの速さの差が出てしまうということです。

4番目の文字列を暗記できない理由もこれでおわかりのはずです。コーディングができないわけです。もしこの文字列が2番目に来ていたら暗記するのをあきらめてしまう可能性が高くなるのもそのためだったのです。そして同時にお気づきいただきたい重要なことがあります。コーディングできない文字列はあくまで「瞬間記憶の限界」を伴う関係で、覚えることができたとしても確実に忘れるのに対し、コーディングできた文字列は、そのコーディングの意味が生き生きしたものであればあるほど長期記憶化してしまうという事実についてです。このことは、我々能開センターの受験教育現場で既に立証されています。この8この文字列を使った実験を1~2ヵ月、間をおいて繰り返すと、必ず子どものほうから「あの4312、7856の話やろ」と、予想通り覚えにくかったはずの文字列が1番最初に再生されるわけです。むしろ12345678よりも高い再生率になるという驚くべき事実が確認できているのです。

この事実を認識することの意味はとても大きいものと考えられます。受験学習にとって‘暗記’ すべき事項の多さは半端なものではありません。にもかかわらず、単純暗記を強いるようなケースがあればこれはもう残酷という表現以外与えるべき言葉が見当たりません。と同時に、この事実を認識せずに単純暗記に励む受験生を放置していることもまた無責任の謗りを免れないでしょう。
よって今後は、「覚えたらしまいやん」というあの軽い投げかけには注意が必要です。文字通り「覚えたらしまい」は「覚えたらおしまい」かもしれないからです。そこで、あの有名な「エビングハウスの忘却曲線」にも触れておきたいと思います。ドイツの心理学者エビングハウス(1850-1909)は、記憶率のことをこう考えました。最初に暗記するのにかかった時間を学習時間とし、忘れた頃に再び暗記するのにかかった時間を再学習時間とすることで、学習時間と再学習時間との差が記憶率を表わすというものです。式で示したものがこれです。

記憶率

それでは再び実験です。「エっ!また?」なんておっしゃらずにもう一頑張りお願いします。お疲れのことと思いますが、「記憶と忘却のメカニズム」を知っておくのは受験生にかかわるすべての方の責務のようなものです。是非おつきあいください。


次の実験ページへ