奥原 圭貴・東大寺学園中入試プロジェクト責任者が語る“合格指南”

記事の日付:2015/06/01

この記事は 2015年06月01日 に書かれたものです。
現在は状況が異なる可能性があります。

 

『中学受験を、6年先をも見据えた受験として全うできているか』
東大寺学園中入試プロジェクト責任者:奥原 圭貴

奥原 圭貴・東大寺学園中入試プロジェクト責任者が語る“合格指南”

中学受験を、6年先をも
見据えた受験として
全うできているか

東大寺学園中入試プロジェクト責任者

東大寺学園中入試プロジェクト責任者

奥原 圭貴

自らも中学受験の経験があり、成長中であるがゆえに時に弱く時に強く揺れ動く子どもたちの心をしっかりと見つめた指導を行うが、思い込みによらず客観的なデータに従った冷静な対応が身上。岸和田校、河内長野校、堺東校などで教鞭をとり、算数精通者として『算数大全』制作に長らく携わる一方、計数にも明るく、能開センター全体の成績管理も担当。今春より東大寺学園中入試プロジェクト責任者に任命される。

各校でのゼミと、集結特訓・日曜実戦のマトリックス指導

早速ですが、東大寺学園中入試プロジェクトの目的、ねらいについてお聞かせください。

奥原 はい。能開センターではいま、最難関入試への学校別対応をより強化する取り組みを進めていますが、この東大寺学園中入試プロジェクトもその一環です。ほかには、灘・大阪星光学院、女子最難関(洛南高附属や西大和学園など)・四天王寺中入試対応のプロジェクトがあります。

 エリア・校に指導スタッフがいて総合的に行うゼミ指導がタテ軸とすれば、そこへヨコ串として各志望校別プロジェクトチームがターゲット中学ごとに横断的な働きかけを行い、各指導内容の最適化と入試結果の最大化を図っていきます。つまり、プロジェクトはマトリックス型組織となって、複数の目で受験生を合格に導くのです。

 志望校別プロジェクトが直接指導する場面は限られていまして、春・夏・秋・入試直前の集結特訓、後期日曜実戦での志望校別クラスの場などが主な舞台となります。こうした場以外は各エリア・校で指導を行うスタッフに働きかけ、間接的に学校別指導を牽引していくわけです。正直なところ、歯がゆく思うこともありますね。

 しかし見方を変えれば、東大寺学園や大阪星光学院中については日常のゼミでのメイン目標校であり、『算数大全』をはじめとする教材群もそのためのものともいえます。そうすると課題は何なのかということになるのですが、私は指導の正確さと合格の確実性を可能な限り高めていくことにあると考えます。

 志望校別プロジェクトの最終目的は東大寺学園中合格実績の質量両面での大幅向上です。具体的には力のある子を見つけ出し、またそういう子を育て増やしていくこと、そして受験生一人ひとりをしっかりと確実に合格させていくことです。そのためにはそういう子たちの適正な選抜と指導の最適化といったことが必要です。これらを強力にリード、サポートしていくのがプロジェクトの、そして私の役割であると考えています。

 ここでポイントとなるのが、受験生の学力状態の正確な把握です。受験は長丁場です。小6となってからも1年間あります。この1年の間には学力の上下揺れがあるのが当たり前です。とてつもなく成長を見せる子がいる一方で、緊急の手当てが必要なケースもあるでしょう。

 ところが、この学力把握というものがなかなか難しいものなのです。なぜならテストにはいくつかの種類があり、問題難度や受験者母体によって、たとえ同じ偏差値数値であっても同じ意味を持つものではないからです。

すべての模試を貫く統合基準値で成績の一元化を試みる

では、どうするのですか?

奥原 各模試の成績を統合し、さらに過去の合否データを使って、相対的な評価から絶対的な評価となる軸を一元化していくのです。私は以前から自分の担当クラスの子どもたちの成績データ処理について、試行錯誤をあきることなく繰り返してきました。今では能開センターの中学受験公開模試をはじめ様々なテストの成績データ処理を引き受け、これまで蓄積してきた経験則がようやく実を結び始めているのです。

 重要でありながらもやっかいだったのは集結特訓や志望校判定模試での成績でした。中学受験公開模試は小6全員が同一問題で毎月受けます。一方のコース別模試は毎回受験母体が変わるので、これらをうまく統合できなかったのです。

 しかし、この統合についてもすでに試み、主要学校別の合格可能性率として誤差範囲内でフィックスできたと自分では思っています。少なくとも私たち指導陣にとっての目安としては運用可能になったのではないかと思います。

 もしそうなら、この統合基準値で「ホーム」たる各校での中学受験公開模試の成績と「アウェイ」での各種模試の成績がシームレスに結ばれ、子どもたちそれぞれのオールラウンドでの学力状態がつぶさに見て取ることができます。

 異なる局面での強いところや弱いところが見つかったり、危険信号があれば早急な対応が可能になったりするばかりではなく、東大寺学園中をはじめとする各学校をめざすべき子どもたちを新たに見つけ出すこともできるはずです。私はこれを使って、受験生の課題を見つけ出し、育て、しっかりと合格まで導いていきたいと考えています。

最高の指導ノウハウをエディターとしてまとめ上げたい

プロジェクトの課題について、どうお考えですか?

奥原 いま申しました統合基準値で見つけ出した力のある子を、プロジェクトとしていかに育て、どう合格まで導けるかだと思います。当然のことながら、私一人でできることでありません。指導に携わる全員が、力を合わせることがぜひとも必要です。

 それには、成績の一元化だけでなく、指導情報の一元化も欠かせません。特に「現在いかに指導していて、今後どう指導すべきか」ということについてです。現状を率直に共有するとともに、より合理的、より効率的、より効果的な指導法を見出し、それらを共有化し、指導のさらなるレベルアップを図っていかなければなりません。

 プロジェクト会議を定期的に開き、これをがまん強く進めていくつもりです。「がまん強く」というのは、いろいろな意見が飛び出すのが当然であり、良い意見でも互いにぶつかり合い、そう簡単に一元的な指導ノウハウがまとまるとは思わないからです。

 能開センターには絶えず有能な指導者たちが新たな血として流れ込んでいます。各スタッフが述べる意見の背景には、必ずそれぞれに明確な指導実績があり、単なる思いつきではないのです。しかしながら、私が、そしてプロジェクトが求めたいのは「現状」を超えていくための指導なのです。

 私はプロジェクトのリーダーとして、まずは指導情報の徹底的な収集に当たりたいと思います。そして情報収集に当たっては、自分の思い込みを極力捨てて中立的に傾聴することを心がけます。と言いますのも、私にも自分なりの指導法というものがあるからです。

 衆智、つまり徹底的に意見を聴くことから始め、そこから良いものを探り出し、組み合わせ、編み上げていきたいと考えます。この面に関して、私が「リーダー」として力づくでふるまうことは良策だとは思いませんし、自分のキャラから言ってもそれは違うと思うのです(笑)。強いて言えば「エディター」、すなわち議論の良き「編集者」に徹し、議論をまとめ上げていきたいと考えています。

難関校入試の算数突破は「手で考える力」の習熟が決め手

ご自分の考えで結構ですので、たとえばどんな指導課題があるのかお教え願えますか?

奥原 わかりました。自分がわかる算数で申し上げます。東大寺学園中入試を突破するには、「手を動かして問題を考える習慣を身につけさせる」ことが最大課題だと思います。言うまでもなく、文章題や図形問題などでの作図についての話です。

 たとえば、光が当たる図形の影について問う問題があります。また、ある図形が動き、その変化を追わなくてはならない問題があります。こういった問題では自分の手でそれを描いてみることで初めて、求めるべき図形が浮かび上がってくるのです。東大寺学園の算数では、こうした「何もない所から、条件のみを手がかりに描いていく作図」を要する問題が全体の約6割を占めます。

 翻って、実戦演習期に入った小6後期の受験生はさておくとしても、それまでの実力練磨中のたとえば小5の子どもたちはどれくらい手を動かしているでしょうか。手を動かすことをじゃまくさがるのが特に男子です。彼らもこの種の単元を初めて習うときには手を動かしながら考えるのですが、解法をいったん理解できたあとは手を動かさずに頭だけで解決しようとします。これではダメなのです。

 算数というのはいったいどのような科目でしょうか。ある問題が与えられ、それを解くだけのことではないかと思われがちですが、少なくとも東大寺学園をはじめとするいわゆる難関校の入試算数では純粋な計算問題以外はそうではありません。バラバラに与えられた情報を自分で整理し、統合的に解決法を見つけ出す力を問う科目、それが算数なのです。

 能開センターの入試分析で「方針探査」と「遂行」という難度分析機軸があるのですが、その方針探査がこれに当たります。簡単に言えば「どう解けばよいか」です。ちなみに遂行とは、その方針に基づき正確かつすばやく答えを導き出すことを言います。この方針(解き方)を見つけ出すのには、情報を一箇所にまとめて可視化し、必要な条件で欠落した部分を補っていくという作業が最大のポイントなのです。はっきり言って、これなくしてこの種の問題は解けません。

 こういう「手で考える力」は習熟によるものです。実戦演習期に入ってからの付け焼刃では底が知れたものになってしまいます。「手による思考力」を鍛える指導を早い段階から徹底的に行うべきだと考えます。東大寺学園をはじめとする難関校をめざす受験生、そしてその合格者が増えていくには、いまの受験生への指導はもちろんですが、それ以上に小5、小4の子どもたちへの指導の質にかかっていると思います。

できる問題、解くべき問題を選び、速く正確に解く「得点力」

奥原 いま述べましたことは算数についてですが、もちろん他教科についても同様です。きちんと2年後、3年後を見据えた指導方針が必要です。こうした整備を進め、普遍的な指導法を構築していくというのが私の願いの1つですね。

 指導というのは「クイを打つ」ような作業です。「この条件が来たら、こう動くべき」という普遍的思考パターンとなる「クイ」を、適切な間隔で打っていくのです。この間隔が狭すぎると「習ったままのパターン問題」しか解けない頭の固い受験生になってしまいまし、広すぎても、得点源となる定番問題を取りこぼしてしまうだらしのない受験生になってしまいます。そのあたりのバランスが指導の一番難しいところであり、またおもしろい所でもあります。そういう意味でも指導法はとても重要なのです。

 以上のような中期戦略とともに、当然、いまの受験生に対して合格に直結する短期戦略指導も必要となります。合格には、必要条件である「学力」だけなく、十分条件となる「得点力」が絶対に必要です。学力はあるのに成績が伸びないというケースがありますが、これはたいてい得点力が足りないのです。

 入試を含めてテストには、いくつかの制約条件があります。中でも最大のものは制限時間の存在です。そこで時間管理と優先順位づけが大きな成功条件となるのです。時間制限内に最大限の得点を上げるというのが得点力です。概して男子より女子の方がこの面では優れていますね。

 男子はともすれば、「解きたい問題を解く」というようなことをやってしまいます。解きたい問題というのは、解いておもしろそうな問題です。やりたいこととやるべきことは区別しなければなりません。時間制限がありますし、選んだ問題が必ずしも解けるとは限らないのです。

 また、男子にありがちなのは、早く答えを出したいあまり、踏むべき解答手順をついつい飛ばして進めてしまい、結局ミスを犯すというものです。おわかりのように、答えが間違っていれば得点になりません。スピードは必要ですが、「急がば回れ」の言葉どおり、目的達成のためには手段軽視は禁物です。これも体で覚えなければならないことです。

 できる問題、解くべき問題を選び、速く正確に解く力――集結特訓や日曜実戦など入試実戦演習ではこの得点力を徹底的に鍛えていきます。東大寺学園をはじめとする難関中学校の入試問題は、一目で解けるか解けないか判断できるような問題はほとんど出題されません。実際に取り組んでみて、「もう少し考えるべきか、後回しにするべきか」、その場で判断をしていかないといけません。その勝負強さをしっかりと鍛えていくのは指導課題の1つでしょう。

東大寺学園中学70名合格のブレイクスルーが可能な秘策

今後の抱負と展望をお聞かせください。

 先ほど、先を見据えた指導と申し上げましたが、「先を見据える」ということに関連して少し残念に思うことがあります。それはときどき耳にする、「通学の便もあり最終的に進学先は大阪の学校を選ぶので、奈良の東大寺学園中への挑戦には意欲がわかない」というお声についてです。

 申すまでもなく、中学受験での合格はあくまで通過点で、それが最終ゴールではないわけです。実際の進学先がどこであろうとも、そこからの大学受験こそ学業の大目標でしょう。問題はここにあります。せっかくの中学受験を、「6年先をも見据えた受験」として全うできているかどうか、ということです。

 受験は単に合格をめざすものではありません。学力を、そして自分の可能性を最大限伸ばし試せる、またとない機会なのです。能力の飛躍は、逆説的ですが「壁」なくしてあり得ません。これにあえて挑戦することでこそ、伸びや飛躍が可能となるのです。

 このことは、「すすんで可能性に挑み、その体験を通して自らの世界を拡げよ」という能開センターの哲学でもあります。「先を見据えて、さらに上をめざす。これが大事なことだ」と、集結特訓などでもよくそういう話をします。

 だから、チャンスがあるのなら、東大寺学園中受験を通して自分の可能性を力いっぱい伸ばし試してもらいたいのです。この「先を見据えた受験」というチャレンジは、もちろん東大寺学園中に限ったことでも、また男子に限ったことでもありません。全員がこの姿勢で臨んでもらいたいと思います。私たちも全力で支援していきます。

 さて、プロジェクトの来春の数値目標としては東大寺学園中学70名合格をかかげています。こう言うとおそらく内部からも「おいおい大丈夫かよ」という声が聞こえてきそうなのですが(笑)、私にはある確信があります。

 実は10年ほど前、能開センターには当時とても乗り越えられないと思われた「壁」がやはりありました。しかし突破できたのです。これは『算数大全』の導入がブレイクスルーとなった成果だと思います。そして今回の秘策は新たな強力指導陣の参入と融合です。ある臨界点を待つ必要はありますが、それは必ずやってきます。

 いまは言わば生みの苦しみの時期です。これがしばらく続くでしょう。このプロジェクトでもいろいろと困難が待ち受けていることはすでにお話ししました通りです。しかし能開センターは新たなハイブリッド能開として脱皮していきます。

 私自身は、スタッフが感覚のみに頼らずに子どもたちを判断できる絶対評価となる指標を示し、自分が持っていない情報についてはエディターとしてまとめ上げていくといった、自分がやるべきことをやっていき、このメタモルフォーゼにいささかなりとも貢献したいと思います。

ありがとうございました。