頂への道・国語編~前編~

記事の日付:2019/06/18

この記事は 2019年06月18日 に書かれたものです。
現在は状況が異なる可能性があります。

 

『最難関中学受験には正しい方法での国語学習が大切』
最難関選抜Sαクラス国語担当・国語科主任:上野 誠一

最難関選抜Sαクラス国語担当・国語科主任 上野 誠一

頂への道・国語編 『最難関中学受験には正しい方法での国語学習が大切』

 過日、「教育フォーラム」の一環として「頂への道・国語編」が開催されました。
教育フォーラムとは、お子さまを見守られる保護者の方々に中学受験に関して広く情報や知識を提供する場で、ご家庭での今後の取り組みに、またさまざまな局面でご判断の際にその一助となればと実施するものです。
今回は、灘・東大寺学園・洛南高附属などの最難関中学をめざす国語学習について、能開センター最難関クラスで国語指導を担当する上野が講演いたしました。これをWeb報告としてお届けします。

「最難関選抜Sクラス」と本日のお話の内容について

上野

 こんにちは。今日は「最難関選抜Sクラス」での国語指導を中心にお話しさせていただきます。
「Sクラス」というのは、能開センターの6年生最難関クラスの総合名称で、そこにはα(アルファ)・β(ベータ)・女子最難関の各クラスが含まれます。
なお、4・5年生では「最難関α選抜特訓クラス」というものがあり、それが6年生の「最難関選抜Sクラス」へとつながっています。

 さて、本日は次の4点についてお話しいたします。

①.国語にまつわる世間の動き
 ~大学入学共通テスト
②.「最難関」が要求するチカラ
③.何をどう身につければよいのか
④.トップ集団の授業でめざすもの

「大学入学共通テスト」の国語問題が要求する高度な国語力

 まず、「国語にまつわる世間の動き」についてお話しします。ご承知の通り2021年1月より、現在の「大学入試センター試験」に替わりまして、「大学入学共通テスト」が始まります。東京オリンピックの翌年、2020年度の高校3年生たちが最初の受験生となります。もうまもなくです。国語については、記述問題の導入をはじめ、「読む・話す・聴く・書く」「実社会と関わる言語活動」なども考慮して出題すると発表されています。

 2018年11月、本導入に向けて第2回目となる試行調査が全国8万名以上の高校生たちが実際に受ける形で行われました。そこで出題された国語はどのような問題だったかご存知でしょうか? 少しご紹介します。解答用紙はこのように、おもて面が記述解答欄、うら面がマークシート解答欄となっています。記述解答欄はこれまでのセンター試験にはなかったものです。試験時間は80分から100分に延びています。

 大問が5つあり、その第1問は記述解答問題です。共通するテーマ(ここではコミュニケーション)について書かれた短めの2つの文章を横断的に読み取りながら、記述解答せよという問題です。小問が3つあり、それぞれ30字以内、40字以内、80字以上120字以内との字数指定です。冒頭からの記述3題はなかなかキツイですね。

 第2問以降はすべて5択のマークシート式の解答となっています。しかし、その第2問は単なる文章読解ではありません。文言がつまった「ポスター」や、「著作権法」の条文(一部)が「資料」として加えられていて、PISA的というか実用的複合的な読解問題となっています。続く第3問は現代詩、第4問は古文(『源氏物語』の一節)、第5問は漢文(『荘子』の一節)の読解という出題構成です。

 結果はマークシート分が200点満点で、それとは別に記述3題はかなり細かな基準のもとA~Eの5段階で評価されます。

 言いましたように、試験時間は100分。問題冊子はなんと52ページに及びます。高い国語力、文章読解力は言うまでもなく、応用的な思考力や情報処理能力までもが要求されているのではないでしょうか。かつて私の世代が鉛筆を転がしながらセンター試験を受けたときのような、牧歌的な受験スタンスではとてもとても歯が立ちません(笑)。

 これから中学受験をされ、将来大学受験に臨まれるお子さまはこの流れのテストを受験されることになります。今日は時間がなくて詳しくはご説明できませんが、今後の国語学習においては私たち能開センターが指導しているような「読解行動」、すなわち読み取りのステップを着実にマスターしていくことがいっそう重要となるのではないかと考える次第です。

入試問題に込められた受験生へのメッセージ(灘中学校)

 次に、最難関といわれる中学入試ではどのようなチカラが要求されているのかを考えてみます。実は各中学校からは受験するにあたってのアドバイス、あるいは出題のねらいや意図が入試説明会などの場で発表され、文章が配布されています。それを読めば、各学校がどんな受験生を求めているのかがよくわかります。今日はそれを代表して灘と東大寺学園について確認します。

 まず灘中学校です。

 普段から意識して正しく日本語を使い、覚えるように心がけるのはもちろんですが、豊かな広がりをもつ日本語の世界への興味を深めてください。
 世の中のいろいろな現象に対する見方や意見を示してくれるのが文章です。作者がどのようにして、何を訴えようとしているのかを常に意識して読み取ることが大切です。
 主語、述語、指示語や接続の言葉、語の省略などにも気をつけて読んでください。

 これが入試問題にどのように反映されているのでしょうか。たとえば、2018年二日目大問三の詩の問題を見てみます。「正月さまを迎えに行くぞ/祖父の恒例の声を待っている/大晦日」と始まる「三日箸」という詩です。祖父が樫の木の枝から正月に使う家族みんなの箸を削り出し、一人ひとりの名前が書かれた箸袋へと納めていた頃の思い出が描かれています。

 伝統的な「祝い箸」の風習です。普段から言葉などを手掛かりに、日本人の生活習慣やその背景にある考え方にどれだけ関心を向けているかを試す、言い換えれば小学生に日本人としての教養を問う問題だといえます。灘中学校ではそれが求められているのです。

単なる受験学習という枠や軸を超えて、日常生活においてから“小さな大人”として「ものの見方」を育む姿勢が肝心です。その際に目の前に見えていることばかりではなく、その背景にある歴史や文化にまで関心を寄せ、考えを深めることを周りの大人が助けることが必要でしょう。

入試問題に込められた受験生へのメッセージ(東大寺学園中学校)

 次に東大寺学園です。出題の指針からピックアップします。

 小説(随筆)では、主として心情把握を問います。
 記述力を重視しています。50字~100字程度で説明する問題を必ず出題します。

 なかなか明快です。2018年の物語文(大問三)も文章だけでB4で3枚に及ぶ本格的なものでした。あらすじはこうです。不登校の大林君の椅子が荷物置きにされないように、休み時間はそこに座る「わたし」。すると大林君の友人が「預かってきた」と一枚の小さな板をわたしてくれた。傾いた椅子に座るわたしのために。

「とん、と、どこかで小さく窓が開いたような気がした。」

 小問七はここに傍線が引かれ、そのときの「わたし」の気持ちを100字以内で説明しなさい、という問題です。

 いかがでしょうか? 二人の心が通じ合った情景です。それを100字でいかにまとめるか。心情は「うれしい気持ち」。なぜ?―「大林君と心が少し通じ合えた気がしたから」。そうなった具体的な事情や出来事は?―「大林君が自分の少し傾いた椅子に座り続けるわたしのことを認め」、「わたしが座りやすいように小さな板をわたしてくれた」。以上の4点をまとめます。

 東大寺学園が問う心情把握はズバリ「他者理解」です。登場人物たちのそれぞれの事情、それらが絡み合った複雑多様な人間関係の中で、ある人物の気持ちをいかに理解できるかが毎年きまって問われています。「他者理解ができる子がほしい」という学校の強いメッセージが感じられます。

 これは受験生の人物を測る、形を変えた“面接試験”なのです。そういう意味で読書や生活の中で人間力を育んでいくことが大切です。「勉強さえしていればよい」「解ければよい」ではなく、同時に人間、特に他者をより広く理解し、より深く知ろうと意識し努力する姿勢が求められています。

国語で文章を読むとはただ読むのではなく文章を分析すること

 では、どのような国語力をどう身につければよいのでしょうか。最初にお断りしておかなければならないのは、国語の読み取りとは感覚的に何となくで行うものではなく、根拠に基づき論理的に読み解いていくものだということです。それを「読解力」「語彙力」「解答作成力」の3つに分けてご説明します。

 まず「読解力」、これは読書量で決まるものではありません。国語において「文章を読む」とはただ読むのではなく、文章を分析することです。そして分析するとは、文章の構造を理解し、文章テーマの論点整理をすることなのです。前者はロジカル・リーディング、後者はクリティカル・リーディングと呼ばれます。

 具体的に、文章から何をどう読み取ればよいのでしょう。また、そのためにはどんな観点を持てばよいのでしょう。論理的文章の場合、必ずそこに「ある話題」があります。これをめぐって、一方に「世間の一般論」、もう一方に「筆者の意見」があります。一般論のどこがどう間違いであり、筆者の意見はなぜ正しいのか。筆者はそれを段落に順序立てて対比させ、説明の具体化や抽象化をくり返しながら展開し、読者に訴えているのです。論理的文章では、こういう観点をもって読めているかどうかがポイントであり、結局どんな話だったか言えるどうかが大事です。

 文学的文章では、作品の背景に作者の主題、伝えたいメッセージがあります。そしてそれに基づいて、主人公をはじめ登場人物たちと場面展開の設定があり、出来事の進行と人物たちの心情変化があります。物語全体を通じて、中心軸となる大きな事件や出来事の前後で、特に主人公の心情と行動がどう変化していくのかを読み取ることが最重要です。そういう観点でどんな話だったかが言えるどうかが大事なことです。

 それと、物語文を読む際にポイントとなることに、「出来事→心情→行動や態度」(たとえば、プレゼントをもらった→うれしい→笑顔)という流れがあります。問題では「なぜ?」と問われることが多いのですが、その場合は「行動や態度→心情→出来事」と逆向きに考えます。このつながりを普段の生活の中でも意識していると、物語文の読解や解答にグッと役立ちます。あのときなぜ僕はお母さんに叱られたのか、などですね(笑)。

 文章読解に関してはもう1点、特に論理的文章では話題になっているテーマについてある程度の知識を持っておくことが準備としては大事です。中学入試では頻出の文章テーマというものがあります。たとえば、「言語と記号」「自然と人間」「科学技術の功罪」「家族」「アイデンティティ」などです。大学入試と変わりませんね。もちろん、能開センターでは受験に向けてここもきちんと準備してまいります。

ことばの学習では書き取りだけでは身につかない運用力が大事

 次に「語彙力」について申し上げます。
漢字や慣用句を覚えなくてはいけない。それはそうなのですが、ただ丸暗記し、読み書きができるようになればよい、ということではないのです。

たとえばこんな問題があります。

・汚名を挽回するチャンスだ。
・口車を合わせて彼をだます。
それぞれの間違いを直しなさい。

 いかがでしょうか? 汚名は「挽回」(取り戻す)ではなく「返上」するものです。挽回は「名誉を挽回する」などと使います。もう1つは「口車」ではなく「口裏を合わせる」です。似た慣用句の「口車に乗る」との取り違えです。こういうふうに間違えやすいことばというものがあります。

 また、同じ熟語でも、読み、そして意味も異なることばがあります。たとえば「生物」は「せいぶつ」「なまもの」、「初日」は「しょにち」「はつひ」と使い分けられます。このように、ことばはその周辺にまで広げて知識を整理し、必要な関連づけをしながら定着させていくことが有効であり肝心です。つまり入試で問われる語彙力とは、丸暗記ではなく自分でことばが使えるかどうかの「運用力」なのです。

 能開センターの漢字の授業では、以上のようなことを意識して、たとえば「エンジンがサドウ(作動)する」ということばを学んだら、引き続きこんな学習を続けます。「作動をひっくり返したら?」「動作。別のことば、意味になったね」「では、次の□に共通して入る漢字を何かな?」ということで、「階□・□階、□人・人□、□目・目□、進□・□進」。答えは「段、名、上、行」ですが、こんなふうにことばをセットで学習していきます。

 別の漢字の学習では、たとえば「ウンユ(運輸)業者が荷物を運ぶ」で「輸」を「輪」と間違う子がいます。どうして間違えるのか? それをクラスみんなで考えます、調べます。それを発表し合います。同じ「くるまへん」、輸入・輸送・輸血、車輪・二輪車などどちらも運んだり動かしたりすることに関係している。でも、輸は「はこぶ」、輪は「わっか」がもとの意味だ。というような具合に知識を対比させながら整理し理解していきます。ことばの学習では、書き取りだけでは身につかない運用力が大事なのです。

「国語ができる・できない」の分かれ目から国語力を考える

 ここで、改めて「国語ができる・できない」の分かれ目について考えたいと思います。国語という科目は普段使っている日本語のせいでしょうか、大人から見れば「読めば、そこに答えがあるでしょ!」「何でそんなことも知らないの?」と、なぜわからないのかがわからないという特殊な科目であるようです。だからこそ、子どもたちが具体的にどこでどうつまずいているのか、まずそれを確かめることがとても大切なのです。

 実は「国語ができる」とは、お話ししてきましたように、まず「文章が読める」ということですが、それは「読書」とは違い、文章の構成・組み立てを理解し、文章の背景が理解できるということでした。決して「読めばわかる」というようなものではないのです。実際、子どもたちは傍線部の3行前にあってもその答えが見つけられません。「助けとなる接続語がない」「間に具体例がはさまっている」など、つながりを見失うことも多いのです。

 次に「ことばを知っている」ことが必要ですが、これも単なる知識ではなく、言い換えたり具体化したり運用できる力でした。さらに、「読書」ではなく「問題」ですので「答え方を知っている」かどうかが重要となります。設問の条件を正しく理解し、それに適した答え方ができなければなりません。これが「解答作成力」です。

 設問で言えば、自由「記述」ではなく「抜き出し」の指定、「当てはまる」ではなく「当てはまらないもの」を選べ、「1つ」ではなく「すべて」選べ、などの条件を読み飛ばしがちです。慣れていないせいか、あせりからか、時間不足だっただけなのか等、改善のためには間違ったリアルな理由を検証していく必要があります。

 今度は「国語ができない」という側面から見ていきましょう。たとえば、「文字の洪水に対処できない」。これは先ほど申しました論説文や物語文の組み立てを意識せず読み始め、知らないことばにただ流されて、何が書いてあるかわからないという状態です。

 「抜き出し問題ができない」。そこに入る条件、前後の対応関係の読み解きなど、ただ入ればよいというものではなく、決してやさしい問題形式ではありません。できるようになるにはトレーニングが必要なのです。

 「記号選択ができない」。各選択肢についての復習、反省学習が必要です。なぜその選択肢が正解なのか、他の選択肢はどこがどう間違いなのか。細かい点検作業になりますが、この検証ができないと、いつまで経っても選択肢問題ができるようにはなりません。

 「記述を書かない」。これはある程度トレーニングが要ります。答えの作り方、書き方のコツもあります。でも慣れれば誰でも書けるようになります。

 「ことばを覚えられない」「漢字を図形のように覚えている」。これらはことばを暗記ものだと思い込み、無機的に理解しようとしていることが大きいと思われます。ことばは関連づけて理解し、系統立てて覚えていくものです。

 以上、「国語ができる・できない」の主なポイントについて申し上げました。要はそれらにはきちんと具体的な理由があり、今はできなくても1つひとつ改善することによりできるようになるのです。

後編へつづく