東大寺プロジェクト理科リーダーが語る“合格指南”
この記事は 2017年07月27日 に書かれたものです。
現在は状況が異なる可能性があります。
『ワンランクアップをめざせ!2017夏・理科学習へのアドバイス』
東大寺プロジェクト理科リーダー 河原 豊
今年も能開センターの“熱い夏”が始まります。受験学年はもちろんのこと、各学年とも一年の中で一番多く時間がとれるこの夏が自分を1ランクアップさせ、次のステージをめざす飛躍の季節となります。
このチャンスを最大限に活かすため、東大寺プロジェクト各教科リーダーがこの夏の過ごし方を語ります。アドバイスを上手に活かして、充実の夏にしてください。
4年生は身近な自然を体験的に理科の観点で学ぶ夏に
4年生には、この夏の機会にぜひしてもらいたいことがあります。それは実体験による自然学習です。5年生以降には時間的に余裕がなくなり、そうしたくてもなかなかできなくなります。
理科は自然を学ぶ科目です。自然に興味を持ち、不思議を探り、その原理やルールを理解し、それを自分でも使えるようにしていくのが理科という科目です。能開センターでは、4年生はその導入として、身近な自然を中心に学んでいくカリキュラムを編成しています。
たとえば動植物を学ぶタイミングは、実際の季節に合わせて、春、夏、秋、冬とあえて時期を分散させて学んでいきます。理由はそのつど、変化を見せる身近な自然に触れ、生き物を実際に見たり触れたりしてほしいからです。
夏は生き物の活動期です。多種多様な植物が強い日差しを受けて光合成をさかんに行って大きく成長し、その植物をエサとする昆虫をはじめ動物たちも活発に活動します。まさに生き物たちの活動がピークを迎えるのが夏という季節です。ぜひ、動物園や植物園、昆虫館や科学館などにお出かけください。
「どこに行こうか?」ともし迷うのであれば、まず動物園がお勧めです。もちろん、幼いころに何度か行ったことがあると思うのですが、そのころは残念ながら実はまだ動物の「観察」ができる年齢ではなかったのです。基礎学力が身についた4年生になった今こそ、改めて自然の仕組みを学ぶ機会です。
たとえば、以前はただ驚いて見ているだけだった「キリンの長い首」も「どうして長くなったのだろう?」「中身はどういう仕組みになっているのだろう?」と理科、つまり科学の観点をもって改めて観察することはとても有意義なことだと思います。新たな発見がきっとあるはずです。できればホームページなどを見て予習をしてから行くと、いっそうすばらしい体験になること請け合いです。
実は、季節によって変化するのは生き物ばかりではありません。たとえば鉄でできている線路も変化するのです。これは私の授業での持ちネタなのですが、夏の暑さでぐにゃぐにゃに曲がった線路が写った写真を見せ、「鉄は暑さで膨張する。このままでは電車が脱線してしまう。そうならないために、レールにはどんな工夫がしてあると思う?」という話から始めます。
ご承知のように、夏の暑さで鉄が膨張することを見越して、レール間にはすき間が作ってあります。電車がその上を走るとき、ガタンゴトンという音がするのは実はこのすき間のせいなのですね。この音が大きいのは熱膨張が少ない冬ということになります。
そんな目でふだん見慣れているはずのものをながめるというのもたいへん楽しいことです。自然の不思議を教えてあげてください。夏の「観察ノート」を作って疑問点を挙げ、図書館やインターネットでいっしょに調べてあげてください。理科好きになること間違いなしです。
5年生は本格理科に。入試直結の重要テーマのマスターを
5年生の理科学習は、4年生の導入編とは違い、一気に本格的な内容へと変化を遂げます。1学期にも、入試直結の重要テーマを立て続けに学んできました。中でも夏期講習で復習する、力学の「ばねとてこ」、天体の「太陽と月」、化学の「溶解度」は、受験理科でのクリーンナップとも言うべき強力なテーマ群です。
これらについて、1学期にはまだまだ不十分な理解の段階の人もいたでしょう。今度は2回目です。この夏に着実にマスターしてください。この夏は非常に重要です。2学期にはまた新たな重要テーマが次々と登場します。それまでに理科を得意にできるかどうかのターニングポイントとなるのが5年生の夏です。
大丈夫です。夏期講習の授業は全部で5回、授業時間も1回が150分とたっぷりとあり、図式化した上で「なぜそうなるのか」というところまでじっくりと掘り下げてきちんと理解し解けるように指導します。あとは、時間も十分あるはずなので、しっかりと復習をして確実に解き方を身につけてください。
力学や化学計算は、難関中入試でも合否分岐となる問題です。ていねいに時間をかけて復習してください。家庭学習では、計算式もきちんと書き残し、答え合わせはもちろんして、間違ったらていねいに解き直すといった当たり前のことの繰り返しが大事です。
初めにも言いましたように、5年生になって理科は難しくなります。4年生のときは理科が楽しくやれていたのに、5年生になって苦戦しているというお話を耳にします。これは、5年生で学ぶ理科が科学的思考につながる本格的な内容と解法にまで踏み込んでいるせいなのです。
夏期講習テキストの中から、ある1問を紹介しましょう。
「80℃でのミョウバンの溶解度が71.0のとき、80℃の水260gにミョウバンを溶かした飽和水溶液の濃度を求めなさい。」
いかがでしょうか? 4年生の問題なら難なく解けた人でも、今度はすらすらとはいかないと思います。これが5年生の理科なのです。
理科では、計算の前に、科学の用語による条件理解、つまり情報収集とその整理が必要です。次に正確な計算、つまり算数や数学という方法によって数量的な解答を導き出します。子どもたちの算数力の向上を持っての、5年生理科という関係でもあります。
いずれにせよ、子どもたちは相当高度な学習をしています。誤答にも、情報の収集や整理の段階でつまずいたのか、計算過程でミスしたのかと間違い方にも違いがあります。
6年生は多面的に活用できる知識力と初見対応力=問題解決力の向上を
6年生の夏期講習では、秋からの後期日曜実戦やゼミでの既出問題演習など本格的な実戦演習に向け、十分な準備を整えていきます。力学・電流・音・光・天体・化学・動物・植物など、入試合格に必要なテーマがフルラインアップで登場します。秋以降はテーマの垣根を外した総合問題となりますので、テーマ単体としては最後の学習チャンスです。自分の理解があいまいな点はここで解消しておきましょう。
受験生にとって合否の分かれ目となる「天王山」と言われる夏です。この夏にこそ、各テーマの知識を、また解法を自分が本当に使いこなせるものへときっちりと仕上げていくことが必要です。そのためには授業をしっかりと受けることはもちろんのこととして、復習をきちんと行い、疑問があれば納得がいくまで質問してください。
難関中の入試理科への対応力向上にはいくつかのポイントがありますが、この夏にぜひ強化してほしいことを2点挙げておきます。
その1つ目は知識力についてです。子どもたちの知識はバランスに欠けていることが多いです。知っていることと知らないことの差が大きく、これを補うことが必要です。
たとえば、大人にとっては常識だと思える「プロパンガス」がわからない子が多くいます。ある程度しかたがないことなのですが、東大寺学園などはこんな知識も要求してきますので、大人の常識をあらかじめ意識した学習や指導が必要です。ご家庭でもご協力ください。
それから、知識を一面的なものから、より多面的で活用できるトータルなものへと磨き上げていくことが重要です。たとえば「上弦の月は何時に南中しますか?」であればすぐに答えられる子も、同じことを別角度で問う「西側が光っている半月が日没後すぐに見える方角は?」には答えられないことが多いのです。知識の確認と理解のためには、『要点のまとめ』を活用ください。
強化すべきことの2つ目は初見対応力です。特に難関中の入試問題には特有の姿があります。それは「これまでに見たことがない、初めての問題」という姿です。先ほどの「上弦の月」もそうでしたが、実は知っている問題でも表現や問う角度が変われば別物に見えてしまうのです。
中学入試は必ず小学生が解ける問題です。姿が変化して解けない問題に見えるのは中学校がなせる入試出題上のわざです。着眼点を見出し、自分が知っている問題の領域やパターンへと引き戻した上で、解くことがポイントです。
たとえば、物質の化学変化を示したグラフ。急に折れ曲がっているところがあります。なぜそうなっているのかを考えるうちに「気づく」、すなわち自分が持っている知識と照合されて解ける問題へと変わります。
このような初見対応力は問題解決力でもあります。6年の理科、そして入試理科はこの問題解決力を問う、いわばホンモノの理科、科学です。東大寺学園をはじめ難関中が実施する入試説明会で、「問題解決力を問う」と明言されています。多くの良問を経験していく中で、初見対応力そして問題解決力は鍛えられます。一緒にがんばりましょう。
東大寺プロジェクト
理科リーダー
河原 豊