東大寺プロジェクト国語リーダーが語る“合格指南”

記事の日付:2017/07/27

この記事は 2017年07月27日 に書かれたものです。
現在は状況が異なる可能性があります。

 

『ワンランクアップをめざせ!2017夏・国語学習へのアドバイス』
東大寺プロジェクト国語リーダー 東口 聡

東大寺プロジェクト各教科リーダーが語る“合格指南”

ワンランクアップをめざせ!
2017夏・国語学習へのアドバイス

 今年も能開センターの“熱い夏”が始まります。受験学年はもちろんのこと、各学年とも一年の中で一番多く時間がとれるこの夏が自分を1ランクアップさせ、次のステージをめざす飛躍の季節となります。
このチャンスを最大限に活かすため、東大寺プロジェクト各教科リーダーがこの夏の過ごし方を語ります。アドバイスを上手に活かして、充実の夏にしてください。

東大寺プロジェクト
国語リーダー

東口 聡

3年生は学習の習慣と進め方を学ぶとともに、楽しさや面白さを

 3年生は、初めて塾で学習するという子もいるかと思います。まず、国語学習の習慣と正しい進め方を身につけていってほしいと思います。夏期講習でもそうですし、学年を通してもそうです。そしてその中で「国語ってこういう学習なんだ」という楽しさや面白さをぜひ知ってほしいと思います。

 その1つはことばの楽しさや面白さについてです。たとえば漢字なら、読める、書けるようにただ覚えるということだけが学習なのではなくて、「こんなふうに使えるんだ」「こんなふうにできているんだ」という驚きや喜びを味わってほしいと思います。

 一例に「三毛猫」を挙げましょう。
「ミケネコって知っている? どんなネコ?」と子どもたちに問いかけると、中には突拍子もない答えもありますが、しだいに「いろんな色の毛のネコ」「茶色に黒色に白色」などと反応が収斂していきます。

 「じゃあ、ミケネコのミケってどんな漢字?」ということで、みんなで考えていきます。結論として、「3色の毛の猫」だから「三毛猫」で、「三」を「さん」ではなく「み」と読んでいることなどを確認します。この「ああ、そうか」が大事です。「身近で使われていることばが実はどんな漢字でできているのか?」に興味が持てれば、私たちの授業は成功です。

 夏期講習では漢字のほか、ことばのきまり(文法)、それから物語文と説明文の学習を行います。3年生では、まず物語文に親しんでほしいと思います。特に男の子はそうです。よくいわれますように物語文のポイントは人物の気持ちの理解ですが、その前提となるのは文章そのものを正しく読み取ることです。
 いろいろな文章に楽しく触れることで、物語の場面、登場人物、気持ちの動き、指示語が示すものを、「書かれてあることば」によってきちんと読み取ることに少しずつ慣れていきましょう。興味を持つことが大切です。それが読解力につながります。

4年生は物語での心情理解のしかた、漢字力の広げ方を学ぼう

 4年生は、夏期講習では子どもたちが主人公の短編物語を通読します。登場人物たちの場面ごとの気持ちを捉え、その気持ちがしだいにどのように変化していくのかをじっくりと読み込んでいきます。一篇まるごとだから、その物語が持つ本来の魅力も味わえます。

 読解が苦手だという男子に多いのが「自分が、自分が」と主観的なものの見方をするタイプで、実はこういう子は文章の読み取りが上滑りになっていて、書かれてあることとは無関係に「自分なら」で答えを書いたり選んだりしてしまいます。
 当然のことながら、答えるべきは「自分」ではなく「登場人物」についてですし、しかも「~なら」の想像ではなく「書いてあることば・文章」によって根拠づけられていなければなりません。人物の気持ちはたいてい心情を表す語句に基づきますし、因果関係も人物の言動などでたどれます。これを読み取るわけです。

 物語で描かれている場面、その状況での人物の気持ちの理解は、やはりそれに近い経験が自分にあるかないかが大きいでしょう。ただし、似た経験があっても自分の気持ちではなく、あくまで人物の気持ちを書かれてあることだけに基づいて理解することが読解のポイントです。
 ここでちょっと難しいのが自分の経験したことがない心情場面、知らない心情表現です。ことばと裏腹の心情、相手への皮肉や本当の気持ちを隠した言動など、今の段階の自分にとっては教えてもらわなければ理解できない、あるいは教えてもらってもわからない文章もあります。

 年々、子どもたちは多くの経験をし、様々な心情を理解できるようになり、しだいに読解力も向上していきます。これが「大人になる」ということでしょう。そういう意味では、文章読解はことばを通して大人に近づく背伸びを求める学習だといえると思います。あせらずに努力を続けてください。

 実際、ことばは世界を広げていきます。自分の語彙を増やしていくことは国語力ばかりか人間としての成長にとっても非常に重要なことです。しかし日本語の語彙は多岐にわたり、さまざまなタイプのことばを理解していかなければなりません。
 中でも漢語は中核となる大事な領域です。私は授業で漢字の成り立ちを学ぶ「六書」の考え方を軸に漢字指導を行い、単なる暗記ではなく漢字をパーツに分類して構造的体系的に理屈で漢字を理解し、また発展的に応用できるよう指導を心がけています。

 たとえば、「枝」という漢字は「木」へんとつくり「支」(「シ」の音はこちら)から成り、まさに木から分かれ支えるものが枝です。また、紛らわしい漢字に「復・複・腹」がありますが、音はすべてつくり「复」の方の「フク」です。「彳」へんは「道」であり「往復」の通り「またもどる」の意味、「衤」へんは「衣」であり「重ねる」や「こみいる」の意味、「月」は肉月で体の一部を表しています。
 もう一例だけ挙げますと、「構・講」。音はつくり「冓」の「コウ」で、見た目からも組み上げたもの、仕組みを意味します。「木」へんはかまえを、「言」へんはことばを表します。だから、「構」は「構造」などに、「講」は「講演」などに使われているというふうに説明していきます。

 実は漢字一字の意味を理解するには、今もそうしたように熟語に言い換える方が、意味が明確になります。だから、漢字と熟語を組み合わせたり言い換えたりしながら、また同音異字はグループで理解していった方が覚えやすいですし、理屈がわかりその応用も利くのです。こんなふうにして自分の語彙を広げていってください。

5年生は夏は記述克服、またミクロな文章読解術で成功体験を

 5年生は、夏期講習では記述問題に重点的に取り組んでもらいます。テキストは二段構成になっていまして、初めに基本問題として選択肢や抜き出しの問題が並んでいます。そして、そのあと発展問題として同じ箇所が記述問題として再設定されています。
 授業が日程的にも十分あり、毎回連続して取り組んでもらうことにより、書くこと自体に慣れてもらいます。書くのはめんどうだ、あるいは慎重になりすぎてどう書けばよいかわからないといった、いわば「書かず嫌い」をこの夏に克服していきましょう。

 長文記述が毎年出題される大阪星光学院や東大寺学園などの難関中入試では必須のスキルであることはもちろんのこと、他の入試でも記述問題は的確に書きさえすれば部分点がもらえ、かえって選択肢や抜き出しの問題よりも確実性の高い得点源となるのです。このことを、書き方のポイント伝授を含めて、採点指導をする中できちんと伝えていきます。

 文章読解ということでは、5年生以降、いよいよ入試レベルでのミクロそしてマクロのスキルを磨いていきます。ミクロの観点ではまず文法です。文法はすでに学習していますが、5年生ではそれが高度になります。文法と聞いただけでわからない、難しいと思う子もいます。しかしそれは文法学習の広がりを知らずに単独で考えているからなのです。

 文章のより正確な読み取りには、ミクロの観点も必要です。4年生までの文章は子ども向けとされる文章を中心に読んできました。5年生では素材文自体が入試レベル、つまり大人向けの文章になっていて、当然読む技術も磨く必要があるのです。
 そこで文中の助詞や助動詞に、時にはマークして立ち止まりながら注意して読み取ることが必要になります。たとえば、この「ばかり」は限定か程度か、この「ながら」は同時か逆説か、同じことばでも文脈で意味が変わるのです。文法を文法として学習する一方、文章読解、文脈理解に必ず還元しながら相互的に学んでいきます。

 素材文の高度化ということでは、それは4年生までの「説明文」から「論説文」へと変化する論理的文章に典型的に表れています。事象のフラットな説明から、筆者の意見や主張が多く盛り込まれた、複雑かつ難解な内容へと変貌します。
 子どもたちにとって身近ではないテーマについて書かれた大人の文章を、最初は難しく感じるのは当然のことです。しかし内容を理解できれば興味が持てるものも少なくはありません。アプローチの方法が肝心であり、恐れずていねいに読み込んでいくことが大事です。

 ざっくりといえば、論説文の全体の構成は初めが問題提起で、最後が結論でしょう。いくつかの形式段落があって、それぞれどういう役割を持った段落か。例示か、反論か、つながりを探っていきます。形式段落の冒頭ほか、文中の接続詞がまず読解のキーワードとなります。これも文法知識につながっています。

 次に、文脈を理解していくのにキーになるのが因果関係、そして指示語です。読み取りの中で、前に述べた助詞もキーになります。たとえば、文末の「か」。単なる疑問か、それとも反語か。もし反語なら、前の意見に反論を始める宣戦布告となる筆者の問題提起ではないのか。それなら次に筆者の主張が書かれてあるはずだ、などと「か」一語に注目するだけで読解が深まります。

 無限に思える多種多様な論説文にも、一定の論理展開、また接続語やキーワードによる読解ポイントにはパターンが見出せます。私たちはしっかりと準備をして指導計画を練り上げた上で授業を進めています。習得した読解手法が別の文章でも適用できることを実際に解くことで確認してもらいます。

 こんなふうにして「読めた」という「成功体験」を1つずつ積み上げてもらうことが何より大事なことだと私たちは考えています。このことは論説文の読解に限りません。漢字など語彙についても、物語文の読解についても、そして記述についても同様です。1つずつ自分の得意、「できる」を広げていってほしいと思います。

6年生は文章テーマのテンプレートを学び、マクロの読解力を

 夏期講習を含めて、6年生の国語学習における大きなテーマは、文章全体で展開される主題思想やテーマのテンプレート(ヒナ型)学習です。すなわち、主題や主張を追うマクロな読解手法を系統的に学ぶということになります。
 映画やドラマ、またマンガにはよくある展開パターンというものがあります。主人公をはじめ主な登場人物の設定、事件の発生、そして「やっぱり」と思うような結末とか。物語文・小説にもやはりパターンというものがあります。どういう主題・テーマが語られるか、どんな人物設定が行われるか、事件にどう対処するか、結局どうなるのか、などです。

 実は中学入試で出題される物語文や小説には、たいていはですが、ある傾向が確かにあります。まず主人公は個人情報(性格・生い立ち・境遇・外見等)を有した子どもです。ただし、子どもといっても小学生から高校生くらいまで精神年齢の幅がかなりあります。脇を固めるのは一部の個人情報しか書かれていない友人か兄弟か。両方登場することも多いですが、どちらに重点があるかで主題は変わります。
 そして重要な人物となるのが周りの大人たちです。まず両親です。親戚が登場することもあります。さらに近所の大人、両親の友人や関係者、事件で初めて出会う大人たちもいます。大人が重要というのは、彼らの心情を理解することが必ず設問となるからです。そんなとき、あるいはそのことを「大人はどう思っているのか」です。

 主題としてよく取り上げられるのは、友情、親子や兄弟など家族です。ただし、中心場面はハッピーエンドではなく、織りなされては消えていく「枷(かせ:自由を束縛し邪魔をするもの)」によるその崩壊と回復過程です。そして隠された本当の主題は、事件を通しての主人公たちの信条の変化、つまり人間的な成長なのです。

 どんな素材文を選び出題するかには、出題中学校の意図や思想が明確に示されています。たとえば東大寺学園の出題は、毎年さすがは東大寺学園という意気込みが感じられます。主人公の子どもが一度は挫折するのですが、くじけずに立ち上がり、再び目標に向かって前進を始める、いつもこういうストーリーです。
 学校が受験生たる小学生に求めているのは、その場面場面での主人公たちの心情を、文章に沿ってどれだけ理解できるか、共感できているか、他者の気持ちがわかっているか、また周りの大人たちの自分への思いやりが理解できているか、という他者理解です。当の東大寺学園の先生が「面接の代わり」に出題しているとおっしゃっているくらいです。

 どんな素材文を選び出題するかには、論説文についても同じことがいえます。それぞれの中学校が求める小学生像が投影されています。
 論説文、論理的文章についてのテンプレートは、文学的文章のものとは違い、文化論や言語論、読書論や芸術論、環境論や社会論などといった文化・社会論になります。テーマ内容自体が難しいですので、どんな主張がどんなふうに展開されることが多いのかという大人の世界のいわば「常識」をまずは理解していくことが基本になります。筆者の主張を理解するという行為も、他者理解以外の何ものでもないのです。

 その上で、論理的文章の読解スキルを発展させていきます。文学的文章のようなストーリーはありませんが、論理展開や構造の常道や典型、つまりパターンはあります。たとえば、多くは筆者の主張は「反論」として展開されます。つまりその前に「ある意見=覆すべき主張」があり、議論をもし図表にして整理すればそれぞれの主張は対になっているはずです。

 また、筆者は読者にいっそうよく訴えるために具体例を必ず盛り込んでいます。議論の整理のためには、これら具体例や事実、それと抽象化・一般化された意見や主張を仕分けていくことも重要です。特に随筆系の文章では、ある具体的な体験をきっかけにして始まることが多く、事実と意見も入り組み、議論が少しわかりにくくなっていることがふつうです。

 さらに、言い換えによるくり返しが多いのも特徴です。言い換えは具体化と抽象化・一般化をくり返します。文から語句へ、また段落から文や語句へと。その際、接続詞の「つまり」などに注目していくとよくわかります。難しいのは、文脈が遠く離れたところにある言い換え表現です。しばしば設問として問われることが多い言い換えですので、これは重要です。

 以上のように、文学的文章であれ論理的文章であれ、マクロからミクロへ、またミクロからマクロへと、読解力を深めていきます。さらに、秋からは実戦的な入試演習を行い、入試本番に向けて仕上げていきます。
 国語は同じ問題は出題されないとよくいわれますが、汎用性のある読解練習はできます。入試で実力を発揮できる国語力をつけることは可能なのです。この夏、じっくりと読解力の練磨に取り組んでいきましょう。ご期待ください。