算数主任が語る“合格指南”~前編~
この記事は 2016年07月21日 に書かれたものです。
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2016夏・学年別 学習攻略ポイント
『夏を制する者は受験を制す』
算数主任 梁川 裕奉
7月下旬から始まる子どもたちの“熱い夏”――「夏期講習」「夏の集結特訓」に先立って、能開センターの科目主任にこの夏の学習攻略ポイントを学年別に語ってもらいました。また、能開の各科目の特長も聞きました。「夏を制する者は受験を制す」ともいいます。この夏を充実した時間にきっとしてください。
能開の算数の特長――知恵を尽くし、心を尽くす指導
入試分析と実証データ
能開センターの算数の特長について申し上げたいと思いますが、6年生中心のお話となることをあらかじめお断りしておきます。さて、その特長として2点挙げたいと思います。それは実証主義と合理主義です。
初めに実証主義ですが、教材はすべて実際のデータに基づくものであるということです。私たちはありがちな思い込みや個々の主観で受験算数を論じません。その元にしているのは、主には主要中学校の入試問題分析、実際の入試での合否データ、そして「中学受験公開模試」の小問別データです。
その他には「志望校別模試」や入試過去問題演習の成績結果なども参考にしています。これらの分析やデータを連年蓄積し、それらを用いた解析を行った結果に基づいて、能開センターの様々な指導システムを毎年最適化しているのです。
入試問題の分析については、毎年入試があった1月直後から分析を始め、2月にはその結果を「能開センター・入試分析会」として情報公開しています。自画自賛をお許しいただければ、これは従来の単なる傾向分析などを超えた、画期的かつ独自の中学入試分析です。他では真似ができないことをしています。
私たちの教材、それに指導内容はすべてこの入試分析が起点です。ですから、この結果に従って、すべての教材と指導内容は毎年更新されています。能開の入試分析は、分析対象校とした主要校の入試問題の全問を私たちが編み出した25マスの難度マトリックスに振り分けることから始まります。
その座標軸は「方針探査」と「遂行」です。方針探査とは、条件整理を踏まえた解法の発見の難度軸(レベル1~5)です。遂行とは解答に至るまでの作業プロセスの難度軸(レベル1~5)で、指標としては処理時間の長さを指します。私たちはこれら2つの難度軸のかけ合わせを入試問題の解法難度として捉えます。
結果として各小問は、3つのゾーンに分けられます。すなわち、「必須正答ゾーン」「合否分岐ゾーン」そして「難問ゾーン」です。必須正答ゾーンは受験者全体の平均点を獲得するために正答することが必須の問題群、合否分岐ゾーンは合格者の平均点に到達するために正答が求められ合否の分岐ラインとなる問題群、そして難問ゾーンは合否には直接関わらない問題群です。これらを分析対象校すべてについて、各学校ごとに仕分けます。
以上のような入試分析をもとに、私たちは学習テーマごと、難度別の内容を組み込んだ教材を作成しています。これによって、入試レベル、またクラスや個人ごとの到達段階に応じて、最適で必要喫緊の問題群を選択して学習することが可能なシステムになっています。
そして、もう1つ申し上げなければならないことがあります。それは、入試問題のテーマ別弱点克服のための分析です。これには入試問題の分析だけでは足りません。受験生はどこでどう間違えたのか、つまり解答プロセスのつまずきどころまでを把握し、対策教材化する必要があります。
これを実現するために私たちは、「中学受験公開模試」で蓄積してきた小問別データを、能開生の実際の入試合否結果と照らし合わせ、合否結果に反映されたと推定されるテーマ別小問別の正答率状況を抽出しています。
これによって、各中学校入試の合格にはどこをどう乗り越えることが必要なのかが明らかになりました。なお、ここから得られた成果については、毎年「日曜実戦」の「後期・志望校別クラス」の教材に反映するようにしています。
合理的アプローチ
中学入試における受験算数の“山容”は、正直に申し上げて雄大にして峻険です。これをいかに征服するか。まだ小学生である受験生にとってははなはだ至難である、と言っても過言ではないでしょう。
私たちはこれに対して、子どもたちにはできる限り合理的で効率的な、最短のアプローチをしてもらいたいと考えます。私たちの入試分析について申し上げましたが、そこですでにお話の過半は済んでいます。能開センターでは、詳細な入試分析に基づいた多レベル教材を用いて、無駄・無理・ムラのない指導を進めています。
算数テキストは、レベル別クラスに応じて、テーマごと取り扱う問題群が違います。これは必須正答および合否分岐ゾーンが入試レベルごとに違うからです。ある志望校に合格するためには、その受験者のほぼ全員が正答する必須正答レベルの問題群の征服が第一です。
しかしそれだけではまだ合格はできません。受験者全体を見れば正解者と誤答者が入り交じり、その問題の正解者が合格で誤答者が不合格という結果になった、つまり合否を分けたと推定できる合否分岐レベルの問題群も制覇しなければなりません。そしてこれができれば、志望校に合格できます。
能開センターでは、入試レベルに応じて、これらの問題群に焦点を絞った重点学習を進めていくわけです。それ以上の難度の問題は無理に解けるようにならなくても良いということです。難問ゾーンの問題は、合否ラインでの微妙な結果には関係がありません。
入試は相対的な競い合いです。入試難度は学校ごと、年度ごと、受験者母体ごとに毎年変化します。その中学校には、どんな受験者層が集まるのかが最大のファクターです。そして激しい競い合いは、受験者平均点から合格者平均点にかけての、まさに合否分岐ゾーンで起こります。そこに焦点を当てた教材であり指導だということです。
中学入試を知らない人は、入試問題を全問解かなくてはいけないとか、難問にこそ正解しなければいけないと考えます。それらはすべて間違いです。それどころか、そんなことをしようとすると、たいへんな無駄で非効率なことです。実際の入試でも問題は選んで解答しなければいけないのです。
受験生それぞれにとっての、いますべき学習を合理的に進めなければいけません。難問レベルを優先的に学習する必要はまったくありませんし、一方で自分がすでに解ける必須正答レベルの問題ばかりしていても、また合格はないです。合否分岐レベルの問題の制覇こそが最優先すべき課題でしょう。能開センターは、各入試レベルに応じて最適化した指導を進めています。
関連して、もう1点だけ申し上げます。「中学受験公開模試」などの成績帳票にある小問別正答率についてです。これによって、自分がどの小問テーマが弱いのかが一目瞭然です。だから、これに基づく復習や弱点克服を、私たちはいつもアドバイスしています。
正答率が高い問題でのミスは、必須正答ゾーンの問題を落としているといってもいいでしょう。すぐにカバーする必要があります。あとは、自分の成績グループに合わせて、正答率が比較的高いにもかかわらず自分は正解できていない問題をチェックします。ここが自分にとっての、いわば合否分岐ゾーンでしょう。
このようにテスト結果に対しては、合計点への一喜一憂でも、また単に正解・不正解への評価でもなく、小問ごとの自分にとっての意味づけに沿った“リアクション”が必要なのです。そういう目的合理性を持った学習スタイルを私たちは追求し指導します。
ただ、実証性や合理性だけで算数指導が完結するわけでは無論ありません。多くは申し上げませんが、どのレベルの子に対しても、授業を離れた家庭学習の状況まで含めてトータルに、一人ひとりをしっかりとかつ細やかに「見守り」、最後まで「心を尽くし」、やれることはやり尽くすというのが、能開センターの指導であり、算数科の指導です。
2016夏・学年別 学習攻略ポイント
2016夏・学年別 学習攻略ポイント 小3算数
3年生は「算数を良い習慣で楽しみ、算数力を活性化させよう!」
中学受験の特殊性
中学受験には2つの特殊性があります。1つは高校受験や大学受験と違い、精神的な自立もまだ不十分な成長途上の小学生が受験生となる入試であること、もう1つは入試問題が学校での学習だけでは実際的に対応できない内容・難度であることです。
そこで、能開センターの算数学習においては、合格逆算のカリキュラムを組んだ上で、子どもたちの成長段階を踏まえた指導を進めます。3年生では、4年以降の本格的なテーマに向けた導入学習を行い、それを通じて算数の学習スタイル(姿勢・流れ・習慣)をきちんと身につけること、また算数力を伸ばす良い習慣づけを行うことが主眼となります。
学習スタイルということでは、授業の受け方に始まり家庭学習の進め方まで、いくつかのポイントがあります。保護者の方のサポートのしかたという問題もあるでしょう。3年生段階で、一人で全部できるというお子さまはなかなかいません。お子さまを自立に導く形でのフォローも必要となります。
3年生のポイント
算数学習では、どの学年もそれぞれ重要な役割を受け持ちますが、思考が柔軟な3年生ではこれを活かした「算数力を伸ばす良い習慣づけ」が最大の眼目となります。この“ファースト・ギア”をうまく入れることができれば、算数力を確実に1ランクアップさせることができるでしょう。
そのギア・チェンジのポイントは3つあります。1つは「数を自分の実感としてつかむこと」です。「数」とは見えない、触れられない、はなはだ抽象的な概念です。これを説明する“ことば”もまた抽象的です。「何をどう操作しているのか」を理解できているかどうかは、算数力にとって決定的に重要です。
一例をいいますと、植木算などにつながる規則性を問う問題で「木と木の間はいくつ?」と聞かれたとき、「間の個数」なのか「間の長さ」なのかがわからなくなる子がいます。日頃から“もの”と“ことば”との関係を大切にしていく生活習慣が高学年算数での抽象力、さらには国語力を支えます。
2つ目は「自力で解いてみること」です。やったことがない問題にも「できない」とたじろがずに、その時その場で考え抜くことです。入試でもそうなのですが、算数の難問とは“見た目”を変えたものが多く、似た問題は解いたことがあるはずですし、ヒントは必ずあります。それらを見つける、気づく力をつけることでもあります。3年生でグンと差がつく算数力です。
3つ目は「手で試行錯誤すること」です。図形問題を解くかぎは、手を動かしながらのイマジネーションです。また、迷路などのパズルがそうですが、手を動かしながらあれこれ試行錯誤する中で、思わぬヒントが見つかります。やってみる、とにかく鉛筆を動かしてみる。そういうクセづけが算数力にとってとても大事なのです。
夏期講習
さて、その3年生の中間チェックとなる「夏期講習」では、1学期ゼミの重要テーマの復習に重点を置きます。取り上げるテーマは、計算では「四則計算と文章題」「単位計算」「小数」「分数」、図形では「円と球」「三角形と角度」「立体図形」です。また、2学期の予習テーマに「速さ」を取り上げます。学習サイクルをきちんと回し、各テーマをマスターするとともに、夏休みを活用しての反復計算など、良い習慣づけをしていきましょう。
そして、夏が明けての2学期には、「場合の数」「日暦算」、また予習した「速さ」など、算数を解く楽しさがよくわかる、とても面白いテーマがたくさん登場しますよ。いっしょに学習していきましょう。
最後になってしまいましたが、算数力を活性化させるコツは、楽しさ、面白さ、好きだという気持ちです。算数の学習がつらいものになると、思考は硬くなり、成長が鈍り始めます。特に、3年生段階では保護者の方も算数の問題をごいっしょに楽しんでください。それがお子さまの算数力を伸ばす最大のコツです。
2016夏・学年別 学習攻略ポイント 小4算数
4年生は「どんどん挑戦し、失敗を恐れないこと!」
4年算数カリキュラム
4年生から、算数カリキュラムはいよいよ上り坂に入ります。夏まではゆるい上りですので、この夏をしっかりと過ごすことが肝心です。今なら挽回も十分できます。二学期からは坂はやや急になり、そのまま5年算数の高みに連なっていきます。
4年生でのポイントは、3年生に引き続き、「学習スタイル(姿勢・流れ・習慣)の確立」「基本解法の習得」「計算練習」、つまり算数力の土台固めです。3年生との違いは、学習の主体性の確立です。個人差はあってよいのですが、夏以降を1つのメドと考えてください。基本的には自分ひとりで学習できるようにならなければいけません。
ただし、そのときも“放任”ではありませんのでご注意ください。細かい管理や口出しは必要ありませんが、全体掌握は必要です。体調などに異変はないか、いつからいつまで何時間学習しているのか、いまどんな学習をしているのかなどは把握してください。
内容的には、まず「小数」計算です。小数や分数は整数とは違い、抽象的な数です。この征服は重要です。四則混合計算が自由にできるようになるまで反復練習していきましょう。なお、4年生以降は算数教材に、“毎日できる”「計算ドリル」が加わります。ゼミでは毎回、テキストに対しては「確認テスト」を行いますが、計算ドリルに対しては「計算テスト」でチェックします。
4年算数の代表的なテーマは、つるかめ算など面積図を使った文章題ですね。1学期中盤から、「つるかめ算と面積図」「平均算と面積図」「植木算」「数列と規則性」といった受験必須テーマが続々と登場します。夏をはさんで、2学期以降は「差集算」「過不足算」「消去算」「立体図形」「水の体積」と面白い算術テーマが目白押しです。
4年生での落とし穴
4年算数は、子どもたちにとって魅力的です。取り組みがいがあるといいますか、面積図や線分図を使いながら“手品”のように見事に問題を解ける面白さ、問題が解けた醍醐味を味わえるからです。これは非常に大事なことです。加えて、正解すればほめてもらえます。子どもたちにとってほめられることは最高の喜びであり動機づけです。
ここまではいいのですが、同時に算数力にとって危うい岐路にさしかかります。「正解したい」「ほめられたい」という誘惑です。「正解したい」とは裏を返せば、「間違えたくない」「失敗したくない」、さらには「叱られたくない」です。
「○」ばかり並んだ、きれいなノートは、必ずしも良いノートとは言えません。良いノートかどうかを決めるのは、算数の力がつくノートであるかどうかだけです。実際、ノートはきれいでも確認テストでは得点できない、というのもあり得るケースです。
チェックポイントは、授業で演習中、目の前の問題の解き方だけを覚えたり、自ら解かないで先生の「解説待ち」の姿勢でいたり、また宿題で自分の算数力をトレーニングするのではなく、ただ宿題を済ませようとノートを作るというようなことになっていないかどうかです。
そこで、4年生では「成功よりも失敗を」というか、「どんどん挑戦し、失敗を恐れないこと」が算数力を高める“セカンド・ギア”となります。自分の頭でその間違いを「なぜ?」と考える積み重ねこそが算数力を鍛えます。ノートは、その間違いの跡を含めた思考プロセスが記されたものが良いノートです。ふり返って反省でき、誤りを正せるからです。
夏期講習
さて、この「夏期講習」は、1学期の重要テーマの復習と2学期の文章題テーマの予習となります。ここで扱う復習テーマは、入試では単独テーマではなくて融合問題として出題されますので、単一テーマの問題として確認できるラストチャンスとなります。これを含めて、この夏は重要です。これまでの遅れを取り戻せる、また底上げを図れる大きなチャンスだからです。
まず、改めて基本的な学習スタイルをしっかりと固めることです。帰宅したら、すぐに「確認テスト」の間違い直し(=解き直し)をする。宿題は、解法のプロセス(立式、筆算、図など)をきちんとノートに書く、答え合わせを自分でする、間違い直しをきちんとしてテキストチェックする、でしたね。
それから、4年生では計算力のアップを1つの目標にしてください。「計算ドリル」テキストによる計算練習は「夏期講習」中も毎日続け、「計算テスト」は算数授業がある毎日行います。
計算練習では、速さと正確さ、あるいはスピードとていねいさを、自分の性格に応じてメリハリをもって意識してください。時間をかけ過ぎて正解できてもダメです。間違いだらけの計算も無意味です。
問題に取り組む姿勢としては、わからない問題でも自力で解こうと努力していますか? 手を動かし試行錯誤していますか? あきらめずに1題につき最低5~10分は考えるようにしましょう。これが算数力の底上げにつながります。夏はこんなふうに自分を“ギア・チェンジ”する大きなチャンスです。
最後に、土曜の「算数特訓」についてひとこと。くり返しますが、4年生は大事な学年です。1回1回のゼミ内容が重要です。特訓は前回ゼミテーマを定着・促進させる講座です。もし未参加なら受講を強くお勧めします。なお「難関算数特訓」では、ゼミ内容をさらに深め、良質で高度な問題に挑む力をつけていく講座です。
算数主任
梁川 裕奉